訳あって、推しに激似のクールな美容外科医と利害一致のソロ活婚をしたはずが溺愛婚になりました
(――え、えぇ⁉ ど、どど、どうして央輔さんがここに? もしかしてまた夢?)
一瞬、また夢かと思ったが、横に視線をちらっとやると、家族皆が揃ってポカンと央輔を見遣っていたので、そうではないのだと理解に至る。
だが、何が何だかさっぱりわからない。
けれど、相手は推しである。杏璃が混乱したのも一時のことだ。
会いたいと思っていた推しの登場だったので、サプライズも同然、嬉しさもひとしおである。
(あっ! もしかして迎えに来てくれたのかな? けど、それにしては、何だか様子がおかしいような……)
「央輔さん、そんなに慌てて――」
などと思いつつも、声をかけようとした時には、駆け寄ってきた央輔の腕により抱きすくめられていて、言葉を途中で遮られてしまうのだった。
代わりに、央輔から心底安堵したような声が身体を通して伝わってくる。
「杏璃に何かあったらと思うと、思っただけで、生きた心地がしなかった。それだけ、俺にとって杏璃は特別なんだ。本当に無事で良かった。たとえなにがあろうと、もう絶対に離さないからな。杏璃、愛してる。杏璃……杏璃っ」
終いの方は、杏璃の名を愛おしそうに幾度も幾度も呼びながら、無事を確かめるかのようにして、なおもぎゅぎゅっと杏璃の身体を抱き寄せる。
杏璃は状況が掴めないながらも、央輔の様子から、どれだけ自分を想ってくれているかが伝わってきて、感激しきりだ。
胸の中で幸せな気持ちが充満して、今にも溢れてしまいそうだ。胸に納まりきらないほどの充足感と幸福感に満たされている。やがてあたたかな雫となって、杏璃の眦からも零れてゆく。
もうすっかりふたりだけの世界が出来上がっていたところに、コホンッ……と誰かの咳払いが響き渡った。
途端に、家族の前だというのを思い出した杏璃はあわあわと焦り出す。
「⁉ おっ、お、お、央輔さんっ、皆が見てますっ! 離してくださいっ!」
羞恥で真っ赤になりつつも、大慌てで央輔に呼びかけた。
すると、ハッとした様子で腕を解いた央輔が心配そうに杏璃の顔を覗き込んでくる。
「杏璃、もう大丈夫なのか? さっき、お手伝いさんから、転倒してケガをしたって聞いたんだが。家にいるんだし、事故か何かに巻き込まれたわけじゃないんだよな? ケガしたのはどこだ? 起きたりして大丈夫なのか?」
どこで食い違いが生じたかは不明だが、どうやら央輔は杏璃が転倒して負傷したと思い込んでいるようだ。
それにしてもである。
こんなにも狼狽えている央輔を見るのは初めてかもしれない。
普段の央輔は、無表情で淡々としていて、大人の余裕さえ感じるほどなのに、今は見る影もない。
もちろん、杏璃とふたりきりの時は例外でだ。
そのせいか、央輔にとって自分が特別なのだと証明してもらえた気がして、嬉しさが込み上げる。
この幸せをじっくり噛みしめたいが、推しにいつまでも心配をかけるわけにいかない。
杏璃は心を律して、央輔にこれまでの詳細を話して聞かせた。央輔にも話を聞いた結果、色々なことが判明した。
まず、海からの着信履歴に折り返し電話をかけたが、通じず、杏璃の身に何かあったものだと思い込んでしまったらしい。そこで、実家である高邑家にタクシーで乗り付け、お手伝いさんからケガの話を聞いて勘違いしてしまったようだ。
聞き終えた央輔は、自身の浮気疑惑にはさすがに驚きを隠せない様子だった。けれど、元凶である、啓輔には思うところがあったようで……。
「! ……また……あいつか……!」
酷く憤っているようだったけれど。
「央輔さん? 『また』って、何かあったんですか?」
「あっ、いや、何でもない。こっちの話だ」
言葉を濁していたので、これまでにも色々あったのだと察した杏璃は、それ以上の詮索は諦めた。
そんな央輔だったが、杏璃の家族には、すぐさま丁寧に頭を下げて誠心誠意を尽くしてくれた。
「誤解とは言え、この度は、ご心配をおかけすることになってしまい、お祖父さまにケガまで負わせてしまう事態になってしまったこと、謹んでお詫び申し上げます。二度とこのようなことが起こらないよう、杏璃さんの夫として誠心誠意努めて参ります」
「いやいや、央輔さんは何も悪くない。勝手に早合点して騒いだ儂らが招いたことです。頭を上げてください」
「ご迷惑をおかけしたにも関わらず、寛大なご配慮を賜りましたこと、心より御礼申し上げます。引き続き杏璃さんの夫として相応しくあれるよう努めて参りますので、今後ともどうぞよろしくお願いいたします」
「そんなに畏まらなくてもいいんですよ。儂らにとって、央輔さんも杏璃と同じ家族なんですから」
「そうですよ、もっと楽にしてください」
「ありがとうございます」
祖父を筆頭に家族一同が大慌てで央輔を止めに入ってくれたので、ほっと一安心。すると同時に、不謹慎にも杏璃は、推しの真摯な態度に誇らしく胸を張っていたのは内緒だ。
家族の許しを得られた央輔は、ようやく緊張も解け、杏璃の無事に改めて安堵した様子で、柔和な微笑を返してくれていた。その笑顔がとてつもなく甘くて、魅入られた杏璃はつい家族の存在を忘れそうになる。
「杏璃が無事で本当に良かった」
「央輔さんが駆けつけてくれて、私もすっごく嬉しいです」
「杏璃とこうして一緒にいられて俺も嬉しい」
「おっ、央輔さんっ」
「あっ、ああ、悪い」
甘い雰囲気を醸し出す杏璃と央輔にむけて、コホンッと再び咳払いが聞こえてきて、ようやく現実に戻ったふたりだった。
一瞬、また夢かと思ったが、横に視線をちらっとやると、家族皆が揃ってポカンと央輔を見遣っていたので、そうではないのだと理解に至る。
だが、何が何だかさっぱりわからない。
けれど、相手は推しである。杏璃が混乱したのも一時のことだ。
会いたいと思っていた推しの登場だったので、サプライズも同然、嬉しさもひとしおである。
(あっ! もしかして迎えに来てくれたのかな? けど、それにしては、何だか様子がおかしいような……)
「央輔さん、そんなに慌てて――」
などと思いつつも、声をかけようとした時には、駆け寄ってきた央輔の腕により抱きすくめられていて、言葉を途中で遮られてしまうのだった。
代わりに、央輔から心底安堵したような声が身体を通して伝わってくる。
「杏璃に何かあったらと思うと、思っただけで、生きた心地がしなかった。それだけ、俺にとって杏璃は特別なんだ。本当に無事で良かった。たとえなにがあろうと、もう絶対に離さないからな。杏璃、愛してる。杏璃……杏璃っ」
終いの方は、杏璃の名を愛おしそうに幾度も幾度も呼びながら、無事を確かめるかのようにして、なおもぎゅぎゅっと杏璃の身体を抱き寄せる。
杏璃は状況が掴めないながらも、央輔の様子から、どれだけ自分を想ってくれているかが伝わってきて、感激しきりだ。
胸の中で幸せな気持ちが充満して、今にも溢れてしまいそうだ。胸に納まりきらないほどの充足感と幸福感に満たされている。やがてあたたかな雫となって、杏璃の眦からも零れてゆく。
もうすっかりふたりだけの世界が出来上がっていたところに、コホンッ……と誰かの咳払いが響き渡った。
途端に、家族の前だというのを思い出した杏璃はあわあわと焦り出す。
「⁉ おっ、お、お、央輔さんっ、皆が見てますっ! 離してくださいっ!」
羞恥で真っ赤になりつつも、大慌てで央輔に呼びかけた。
すると、ハッとした様子で腕を解いた央輔が心配そうに杏璃の顔を覗き込んでくる。
「杏璃、もう大丈夫なのか? さっき、お手伝いさんから、転倒してケガをしたって聞いたんだが。家にいるんだし、事故か何かに巻き込まれたわけじゃないんだよな? ケガしたのはどこだ? 起きたりして大丈夫なのか?」
どこで食い違いが生じたかは不明だが、どうやら央輔は杏璃が転倒して負傷したと思い込んでいるようだ。
それにしてもである。
こんなにも狼狽えている央輔を見るのは初めてかもしれない。
普段の央輔は、無表情で淡々としていて、大人の余裕さえ感じるほどなのに、今は見る影もない。
もちろん、杏璃とふたりきりの時は例外でだ。
そのせいか、央輔にとって自分が特別なのだと証明してもらえた気がして、嬉しさが込み上げる。
この幸せをじっくり噛みしめたいが、推しにいつまでも心配をかけるわけにいかない。
杏璃は心を律して、央輔にこれまでの詳細を話して聞かせた。央輔にも話を聞いた結果、色々なことが判明した。
まず、海からの着信履歴に折り返し電話をかけたが、通じず、杏璃の身に何かあったものだと思い込んでしまったらしい。そこで、実家である高邑家にタクシーで乗り付け、お手伝いさんからケガの話を聞いて勘違いしてしまったようだ。
聞き終えた央輔は、自身の浮気疑惑にはさすがに驚きを隠せない様子だった。けれど、元凶である、啓輔には思うところがあったようで……。
「! ……また……あいつか……!」
酷く憤っているようだったけれど。
「央輔さん? 『また』って、何かあったんですか?」
「あっ、いや、何でもない。こっちの話だ」
言葉を濁していたので、これまでにも色々あったのだと察した杏璃は、それ以上の詮索は諦めた。
そんな央輔だったが、杏璃の家族には、すぐさま丁寧に頭を下げて誠心誠意を尽くしてくれた。
「誤解とは言え、この度は、ご心配をおかけすることになってしまい、お祖父さまにケガまで負わせてしまう事態になってしまったこと、謹んでお詫び申し上げます。二度とこのようなことが起こらないよう、杏璃さんの夫として誠心誠意努めて参ります」
「いやいや、央輔さんは何も悪くない。勝手に早合点して騒いだ儂らが招いたことです。頭を上げてください」
「ご迷惑をおかけしたにも関わらず、寛大なご配慮を賜りましたこと、心より御礼申し上げます。引き続き杏璃さんの夫として相応しくあれるよう努めて参りますので、今後ともどうぞよろしくお願いいたします」
「そんなに畏まらなくてもいいんですよ。儂らにとって、央輔さんも杏璃と同じ家族なんですから」
「そうですよ、もっと楽にしてください」
「ありがとうございます」
祖父を筆頭に家族一同が大慌てで央輔を止めに入ってくれたので、ほっと一安心。すると同時に、不謹慎にも杏璃は、推しの真摯な態度に誇らしく胸を張っていたのは内緒だ。
家族の許しを得られた央輔は、ようやく緊張も解け、杏璃の無事に改めて安堵した様子で、柔和な微笑を返してくれていた。その笑顔がとてつもなく甘くて、魅入られた杏璃はつい家族の存在を忘れそうになる。
「杏璃が無事で本当に良かった」
「央輔さんが駆けつけてくれて、私もすっごく嬉しいです」
「杏璃とこうして一緒にいられて俺も嬉しい」
「おっ、央輔さんっ」
「あっ、ああ、悪い」
甘い雰囲気を醸し出す杏璃と央輔にむけて、コホンッと再び咳払いが聞こえてきて、ようやく現実に戻ったふたりだった。