訳あって、推しに激似のクールな美容外科医と利害一致のソロ活婚をしたはずが溺愛婚になりました
 それからはしばし家族交えての楽しいお喋りの時間が続いた。

「いや~、それにしても、ふたりが幸せそうでなによりだ」
「そうですね。いいご縁に恵まれたようで、本当に良かった良かった」
「本当に。この様子だと可愛い家族が増えるのも、そう遠くないかもしれないわねぇ」
「可愛い家族が増えるのは嬉しいですね、今から楽しみです」
「……え、可愛い家族って……。もう、ヤダ、央輔さんまでっ」

 そんな束の間を経て、気恥ずかしさを拭いきれずにいる杏璃を含めた家族と央輔の視線が遠慮気味に口を開いた海と空へと集中した。

「「あ、あのう、央輔さん。ご歓談中のところ申し訳ないのですが、少しよろしいでしょうか?」」

 部屋の隅で小さくなりずっと息を潜めて存在を消していたふたりだったが、いつまでもそうしてはいられないと思ったのだろう。

 ズサッと畳を擦るような音が響いた時には、ふたりして畳に額を押しつけるようにして頭を垂れて正座の体勢へと持ち込んでいた。

 さすがは、双子の狂言師。

 あたかも舞台での一幕を演じてでもいるかのような美しい所作で三つ指を立てて、沈痛な面持ちで謝罪の言葉を紡ぎ出す。

「「この度は、多大なるご心配をおかけいたしましたこと、誠に申し訳ございません」」

 ふたりが言い終えと、静かに見届けていた央輔がおもむろに立ち上がった。

 高身長ゆえに迫力が凄まじい。ましてや、麗しすぎる美貌のせいで、神々しささえ感じるほどである。

 杏璃はスマホを取り出し、推しの撮影会を繰り広げたいのをぐっと堪えて見守っていた。

 央輔はふたりの眼前で身を屈めると両膝をつき、穏やかな声で語りかけた。

「おふたりとも、どうか顔を上げてください」

 ふたりとも合わせる顔がないとでもいうように、ピクリとも動こうとしない。

 頑ななふたりに、央輔が意外な言葉を口にした。

「実は、おふたりに、会ってお伝えしなければと思っていたことがあります。この機会にといっては何ですが、聞いてもらえますか?」

 ようやくふたりがゆっくり顔を上げたと思ったら、カッチーンと凍り付いたように制止した。

 どういうわけか顔が青ざめているように見えるが、気のせいだろうか。

 ――気のせいに決まっている。

 きっと央輔の迫力と凄まじい美貌に圧倒されているに違いない。

(海兄、空兄。気持ちはわかるよ。央輔さん、素敵なのを通り超して、神々しいもんね)

「「⁉……も、も、もちろんでございますっ……はいっ」」

 恐縮しきりで、もはや恐怖さえ感じているのかと思うほどの平身低頭ぶりを見せるふたりは再び額を畳に押し当ててしまった。

 なぜか、ふたりの声が怯えているように聞こえるのも、きっと気のせいに違いない。

 ――それだけ、ふたりが猛省しているのだろうな。

 杏璃は密かにそう結論づけた。そこに央輔の穏やかな低音が響き渡り、杏璃の意識は完全にそちらにロックオンされるのだった。

「そんなに畏まらないでください。今回のことは、誤解を招いてしまった私にも責任があります。ですが、その誤解も解けましたし。何より、おふたりが杏璃さんを案じてのことだと理解しております。杏璃さんにとって兄同然のおふたりは、夫である私にとっても、大切な家族なのですから」
「あ、有り難いお言葉痛み入ります」

 まさかふたりに対して、央輔からそんな言葉が贈られるとは夢にも思わず、杏璃は驚くと共に、感極まってしまう。

 そんな中、央輔はふたりの手をぐっと引き寄せた。自然と三人が正面から向き合う形となり、央輔が再びふたりに言葉を紡ぎ出す。

「ですから、夫婦共々、どうか末永くよろしくお願いいたします」
「海兄、空兄。……夫婦共々、どうか末永くよろしくお願いいたします」

 杏璃も目尻から溢れそうになる涙を手で拭いつつ、央輔に続いてふたりに頭を下げた。

「「……も、もちろんです。こちらこそ、末永くよろしくお願いいたします」」

 ふたりに至っては、今にも倒れてしまいそうなほど憔悴しきっていたようだが、おそらく度重なる緊張と猛省による心労からだったに相違ない。そう理解した杏璃は、何の憂いもなく、央輔の頼もしい背中をこの上なく幸せな心地で見つめていたのだった。
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