手を、つないで
7.茉歩



 夢かな……?

 彼以外の、人が、物が、遠くなる。
 音も、遠くなる。

 世界に、彼と私の2人だけ。そんな錯覚に陥る。
 聞こえるのは、彼と私の胸の音。
 どっくん、どっくん。大きく波打ってる。

 同じなんだ。彼と、私の、胸の音の大きさは。
 何故か、わかった。

「……私も、好きです」

 自然に、言葉が出ていた。
 彼の瞳が大きくなった。
 恥ずかしいけど、目はそらせない。
 伝えたい。自分の気持ちを。

「……送らせて、ください。良ければ、家まで」
 恥ずかしそうに、でもまっすぐに言ってくれた。
 私も恥ずかしいけど、笑顔が出た。
「はい。お願いします」

 歩き出すと、世界が戻ってきた。
 でも、彼と私は変わらない。2人でいる。何故かわかる。

 一緒に電車に乗る。
 ぎゅうぎゅうではないけど、電車は混んでいた。
 並んで立って、吊り革につかまる。
 ガラスに映って、彼が隣にいる。
 背が高くて、塩顔イケメン。相変わらずカッコいい。

 この人が、私を好き……?
 信じられない。でも彼は私の隣に立ってる。私を家まで送るために。
 そっと見上げる。彼はいつもの無表情。
 私の視線に気が付くと、やわらかい視線を返してくれた。
 そのことにホッとする。そして急に恥ずかしくなってうつむいてしまった。
 やっぱり挙動不審になってしまう。
 どうか、彼が引いちゃったりしませんように。
 心の中で祈った。



 電車を降りて、改札を出る。
「こっちです」
 先導しながら道路に出る。
「あの」
 一歩後ろから聞こえる声に、振り向いた。
 彼は、私の隣に立って、手を出した。
「……良ければ」
 大きくて、少し骨ばっている。節くれだった長い指。私が好きな、彼の手。
 出された手は、動かない。
 もしかして、手をつなぐってこと……?
 彼の手を見つめて動かない私を、彼は待ってくれている。
 この手に、触れていいんですか?
 おそるおそる、手を出す。
 指先を、彼の手にのせたら、彼は優しく包むようにつないでくれた。
 息が止まる。胸の音が大きくなった。
「……どっちですか?」
 見上げたら、少し赤くなった彼の顔。
 ああ、同じなんだ。多分、同じ気持ち。さっきみたいに、何故かわかった。
「こっちです……」
 わかったからって、恥ずかしさは止まらない。
 うつむきながら、家の方向へ歩き出した。



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