手を、つないで
駅前には何軒かのお店があって、道を曲がるとすぐに住宅街。私の住むマンションは、徒歩8分と不動産屋さんのチラシには書いてある。
住宅街に入ると静かになる。
彼と私も、静かだった。
手のあったかさを感じていた。
強くもない、弱くもない力で。でもしっかりと包み込んでくれて。彼が、私を大事に思ってくれてるのが伝わってくる。
安心、できる。
ドキドキもしてるけど、安心。
それはきっと、彼だから。
この道がずっと続けばいいのに、と思う。
でも着いてしまった。
「ここです」
それ程大きくはない、単身者向けのマンション。オートロックで、女性が多く住んでいる、と不動産屋さんに聞いた。
「ありがとうございました」
そう言って手を離そうとすると、彼はしっかりと握って離してくれない。
彼は、まっすぐに私を見る。
「……あの……」
その目は、優しいけど熱がこもってる。
「俺と、付き合ってください」
ドクン、と体中が鳴った気がした。
「はい……よろしくお願いします」
自分でも驚くほど、言葉が素直に出た。
つないだ手に、少し力が込められる。私も、思いを込めた。
彼は空いている手で口を覆う。
みるみるうちに、顔が赤くなった。
「……今更ですけど……本当に?」
ごにょごにょと、そう聞かれて、笑ってしまった。私も同じことを思ってた。
「……本当です」
そう言ったけど、本当かなってまだ思ってる。
でも、この手のあったかさは夢じゃない。
「私も、信じられませんけど」
そう言ったら、彼がハハッと笑った。
初めて見る。そんな笑顔。くしゃっとして、リラックスしてて。もっと見ていたい。
見つめていたら、彼は気付いて照れくさそうな表情になった。それも初めて見る。それも、もっと見ていたい。
もっと話したい。彼のことを知りたい。一緒にいたい。
でも、それを言ったら、彼はきっと困ってしまうだろう。もう時間は遅い。帰れなくなる。明日も仕事だ。
「……じゃあ、行ってください」
彼が言う。でも手はまだつないだまま。
私は何も言えない。口を開いたら、きっと彼を困らせる言葉しか出てこない。
頷いて、歩き出す。するっ、と、手が離れた。
淋しくなって、振り返る。
彼は少し笑った。
「……これ以上一緒にいると、いろいろマズいので……」
どういう意味だろう。マズいとは。
「……離したくないとか……帰りたくないとか……明日も、とか……会社行きたくなくなるとか……」
ぽつぽつと出てくる。
そして、彼は私の目をまっすぐに見る。
「大事に、したいから……」
体の真ん中がギュッとなる。このまま心臓が止まってしまいそう。
「……はい……あの」
私も、伝えたい。
「私も、大事にしたい、です」
ああ顔から火が出そう。
彼も耳まで真っ赤になってる。
こんなとこまで、同じなんだ。
そう思ったら、自然と笑顔になった。
彼も、笑顔になった。
「じゃあ、また明日」
「はい、また明日」
離れる淋しさはあるけど、同じだという安心感がある。
あったかい気持ちのまま、オートロックの扉を開けた。