手を、つないで
家に着いて、スマホを出す。
帰る間、ずっと考えていた。メッセージを送るか、送らないか。
ーーー今日はありがとう。
これは、送ってもいいものだろうか。
迷って迷って、えいっと送った。初めての、プライベートでのメッセージ。
手を洗っている間に既読がつく。
着替えていたら、返事がきた。
ーーー送っていただいてありがとうございました。
ーーー明日も忙しいと思うから、しっかり寝てください
ーーーはい
少し間があって、もう一文。
ーーー松永さんも。連日お疲れだと思うので。
顔が緩む。彼女が、俺のことを気遣ってくれてる。
ーーーありがとう。
もう一文。
ーーーおやすみなさい。
返事がきた。
ーーーおやすみなさい。
彼女の声で、頭の中に響く。
また顔が緩む。
ベッドに座って、両手で顔を覆う。
「あー……」
声が出た。
重症だ、これは。
いいんだ、今は。家なんだから。仕事じゃないんだから。
いくらでも彼女を思い出していい。
隣を歩く時の揺れる髪。触れたかった。でも触れたら止まれなくなると思った。
今日、彼女を受け止めた時の甘い香り。腕の中のやわらかい体。まだ残ってる手の感触。
キリがない。シャワーを浴びよう。
いつもより少し温度を上げる。シャキッとしたい時にそうする。
……明日、ちゃんと仕事しないとな。
このままだと、なにも手につかない自信がある。
気を引き締めないと。彼女に迷惑がかかるのは避けたい。
今まで通りでいいんだ。今日の夕方まではなんにもなかったんだから。給湯スペースの、あの時までは。
今まで通りって、どうしてたんだっけ……?
ため息をつく。
俺、もうダメかもしれない……いろんな意味で。