手を、つないで


 駅を出ると、彼が止まった。
「あの……」
 手を出す。
「いい、ですか……?」
 昨日と同じだ。
 電車の中で収まっていた火照りが、またやってきた。
「……はい」
 大きな手。今日も、あったかく包んでくれる。
 歩き出す。
 マンションまでの道。彼は迷わず進む。もう覚えてくれたんだ。それが嬉しい。
 マンションに着いて、足が止まる。
 私は、今日ずっと思っていたことを聞いてみた。
「メッセージを、なんでもない時にも、送っても、いいですか?」
 今日は、思ってたけど送れなかった。
「たとえば、おはようとか、おやすみとか、天気がいいですねとか、その、用事がなくても、呟きというか、これおいしかったとか」
 怖い。彼の顔が見られない。断られたらどうしよう。
「返事はいりません。見るのも、時間がある時でいいんです。私が勝手に送るだけなので、あの……」
 ふっ、と息が聞こえた。
 見上げると、笑顔があった。昨日、もっと見たいと思ったくしゃっとした笑顔。
「俺も……送ります」
 それは、送っていいってこと……?
「あの、邪魔だったり、うるさかったら言ってください」
 彼は笑顔のまま頷いた。
 良かった。あんまりたくさん送らないように気を付けよう。
 そして、沈黙。
 もう行かなきゃいけない時間だ。
 『もっと一緒にいたい』は、言えない。明日も仕事。
 先に口を開いたのは彼。
「じゃあ……また明日」
 そう言っても、手を離さない。
 私も、離したくない。
「はい、また明日」
 そう言うまでの時間は、昨日よりも長かった。
 彼は、私がマンションに入るまでそこにいてくれた。
 オートロックのドアが閉まる。
 私は笑顔で手を振った。
 彼も小さく手を振ってくれた。
 その夜は、それを思い出しながら、眠りについた。



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