一夜限りの関係のはずが、隠れ御曹司から執愛されています
 真宮さんが彼氏?
 想像できるようで、できない。

「大丈夫です。彼氏だからって、小春さんに許可をもらえるまでは、この間みたいに手は出しませんから」

 それは、この間の一夜限りの関係のことを言っているのかな。

「考えさせてください」

 今すぐに決められることじゃない。

「わかりました。体調も万全じゃないでしょうから。今日は送って行くので、ゆっくり休んでください」

 それから普通に真宮さんに家まで送ってもらった。
 家を見られるのが恥ずかしかったけれど、彼はアパートを見ても何も言わなかった。

 ベッドの上に倒れ込む。
 真宮さんからの提案、断わるしかないよね。そんな勇気がないもん。

 私は目を閉じ、すぐ眠りについてしまった。

 しかし<ドンドンドン>という騒音で夜中目を覚ました。
 隣の音だ。大家さんには相談しているけれど何もしてくれないし、逆に酷くなったかも。嫌がらせかな。こんなんじゃまた体調を崩しちゃう。
 耳栓とかしたらアラームの音も聞こえなくなるだろうし、どうしたらいいんだろう。引っ越しはまたお金がかかるよね。
 考えることがたくさんあって、頭の整理が追いつかない。
 今日の真宮さんの作ってくれたご飯、美味しかったな。それだけは思い出せた。

 数日後――。
 私は真宮さんの提案に返事ができずにいる。
 どうしよう、やっぱり相手は副社長だ。真宮さんが許してくれても、彼のお父さんが許してくれるはずはないし、偽装恋人だと知ったらかなり怒るんじゃないかな。
 廊下を歩きながら休憩室へ向かおうとしていると、元彼の新とすれ違った。

 私は気にしないように普通に通り過ぎようとしたけれど
「小春」
 新が声をかけてきた。

 無視することもできなくて
「なに?」
 振り返って返事をする。

 誰もいないかと、キョロキョロと新は周りを見渡している。

「どうして返事してくれないんだよ」

 コソっと声量を抑え、訊ねてきた。

「返事をする必要がないと思ったから。料理なら、瑠璃さんの手料理の方が美味しいでしょ。家に呼ぶわけないじゃん。どうせ真宮副社長のことが気になるんでしょ」

 私が返答をすると新は明らかに機嫌が悪くなった様子で
「チッ。彼女だったんだから別にいいだろ。教えてくれたって。マジ、性格悪いな」
 新の発言にカチンときた。

「性格悪いのはお互い様でしょ」

 私は新を振り切って、歩き出す。

「お前、今本当は彼氏なんかいねーんだろ。社員の中で笑いのネタになってるぞ。お前なんかと付き合ってた俺もどうかしてたけどな。ま、報告会の時、その噂の彼氏を楽しみにしてる」

 瑠璃さんと繋がっているから新も知ってるんだ。私が新しい彼氏がいるって言ったこと。ハハっと新は笑いながら歩いていく。
 あんなこと言われて、悔しい。
 
 新と会話をして気分悪く退勤し、帰宅のため駅方面へ歩こうとしていた時だった。

「小春さん!」

 この声
「真宮さん?」
 声の方を見ると、真宮さんが立っていた。

 でも
「今日はメガネとウィッグしてるんですね」
 真宮さんは、はじめて会った飲み会の時の容姿をしている。メガネにウィッグをつけていた。

「小春さん、全然返事くれないので。もしかしてこっちの容姿の方が好みかと思って。変装してきました」

 彼はメガネの奥で悲しそうに笑っている。
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