夢から逃げた私ですが、過保護なエリート弁護士に溺愛されてます
 渉さんのぬくもりが残るジャケットの端を握りしめ、走る背中を見つめていると視界が滲んだ。

 あんなに幸せだった時間が、ほんの一瞬で崩れた。
 どうして、こんな目に合っているんだろう。私がなにをしたというんだろう。恐怖を感じながら、その理不尽さに腹も立つ。

 怖くて仕方ない。だけど、私には渉さんがついているんだもの、泣いてメソメソしていちゃダメだ。
 よく知りもしないストーカーに、私たちの時間を踏みにじられたままでいいわけがない。

 パーキングに辿り着き、こぼれた涙を手の甲で拭った。

 仕事先のパン屋に向かう間、雨が強まる窓の外を眺め続けた。それから到着し、裏口の戸を叩くと桃田店長と奥さんが出迎えてくれた。

「なにがあったんだい、百香ちゃん。それに、そちらは……」
「突然の訪問、失礼します。佐伯渉と申します」

 頭を下げた渉さんが名詞を差し出すと、店長は少し眉間にしわを寄せた。

「とりあえず、中に入ってもらいましょう。濡れたままじゃ風邪をひいてしまうわ」

 事務室に通され椅子を勧められた。
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