夢から逃げた私ですが、過保護なエリート弁護士に溺愛されてます
 渉さんは、深いため息をついた後に「部屋を出よう」とはっきり告げた。それに頷くしかできず、震えながら部屋の電子ロックを解除した。

 化粧をするどころじゃなかった。
 もしもこの部屋にも侵入されていたらと考えたら、恐ろしくて堪らなかった。言葉を発することなく、必要最低限のものをボストンバッグに押し込めて早々と部屋を出た。

 この部屋に帰ってこられるのはいつだろう。
 ロックのかかるドアを背にして渉さんに寄り掛かると「大丈夫だ」と優しく抱きしめられた。だけど、慌ただしく車に乗り込むまで息が止まったようで、気を抜けば足元から崩れてしまいそうだった。

 外へ出ると、ぽつぽつと雨が降り出した。
 部屋に傘を取りに戻る勇気はなかった。一刻も早く、この場を去りたい。

「ここで待っててといいたいとこだけど、そうもいかないな。駐車場まで走れる?」

 渉さんの手を握りしめて頷くと、頭の上にジャケットがかけられた。

「少しはマシだと思うよ」
「でも、渉さんが濡れちゃう」
「平気だ。さあ、行こうか」

 手を引かれて弱い雨の中へと飛び出した。
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