夜明けが世界を染めるころ
「何をなさってたんですか?」

「走り込みをね!体力もつけないと!」
動きやすい格好のまま、元気に笑うティアナお嬢様。

「そうでしたか」
ユウリはその真剣さに改めて感心する。

「でも、このあと馬小屋に行って、にんじんもあげに行くの」

「では、ご一緒します!」
ユウリは自然と答えていた。


正午。
お茶会の礼儀作法を学びながら一息ついていると、突然騒がしい声が聞こえてきた。

「お前の仕業だろう!白状しろ!」

「そうよ!」

この声は――間違いなくマルク様だ。
ユウリは思わず眉をひそめる。

「少し様子を見に行きましょうか?」
ティアナお嬢様が立ち上がり2人で声の方へ向かう。

そこには、マルク様や令嬢たちが集まるお茶会の一角があった。
マルク様はある令嬢を指差し、大声で責めている。

「失礼致します。何事ですか?」
ティアナお嬢様が前へ出る。

「なんだ我が妹よ。お前をお茶会に招待したつもりはないがな」
マルク様の言葉には、相変わらずの横柄さとおごりが滲んでいる。

「あまりにも下品な声が聞こえてきたもので、驚きまして」
ティアナお嬢様は嫌味たっぷりに返す。
ユウリの心の中で、少しばかり良い気味だと思う感情が芽生えた。

「下品とは失礼だな。
まあいい、そこのユリア令嬢がナナ令嬢の持ってきたバラをめちゃくちゃにしたのだ」

ピンク色のバラは無惨に散り、茎や花弁が床に散乱している。

「私ではございません。私はただ薔薇の数を…」
泣きながら弁明するユリア令嬢の言葉を、ナナ令嬢は強く遮る。

「なんてことなの!!
私が持ってきたバラが貴方のバラと被っていて気に食わなかったからって、ひどいわ」

「ナナお嬢様が可哀想だわ」
周囲の令嬢たちもナナ令嬢の肩を抱き、同情を示す。

「これだから、市民出身の者が私たち貴族のお茶会に混ざるからよ!」
ナナ令嬢は泣き笑いのような表情で演技を続ける。

ユウリはその様子を観察する。
一目でわかるのは――ナナ令嬢がユリア令嬢を巧みに嵌めたこと。
だが、証拠を示すことは難しい。

ふと、ティアナお嬢様に目を向けると、彼女は泣いているユリア令嬢の肩をそっとさすりながら、耳打ちで何かを確認している。
ユウリにはその言葉は聞こえなかったが、目の動きと仕草から、ティアナお嬢様は状況を的確に把握していることがわかる。
< 126 / 508 >

この作品をシェア

pagetop