夜明けが世界を染めるころ
静かに図書室をのぞくと――ティアナお嬢様だった。

何冊もの本を広げ、熱心に勉強する姿に、思わず息を呑む。
まだ幼さの残る少女が、これほど懸命に努力しているのだ。
1日のスケジュールをびっしりこなし、それでもなお、夜遅くまで机に向かう――その姿に、言葉を失う。

「いつもこうして勉強しているんですよ」

ナタリーさんの声が静かに耳に届く。
彼女の横顔を見つめながら、ユウリはポツリと独り言を漏らす。

「どうして……そこまで頑張れるのでしょうか」

「と申しますと?」
優しく問いかけるナタリーさん。

「お嬢様は女性ですから、この家を継ぐ目的もないはずです。
なのに、どうして……」

失礼なことを言っているのは自覚している。
でも、ナタリーさんなら理解してくれる――そう思い、本音がぽつりぽつりとこぼれる。

ナタリーさんは静かに微笑み、言葉を続ける。

「どうしてでしょうね……それはお嬢様にしかわからないことですね。
ただ、私が言えるのは、涼しい顔で何なくこなしているように見えても、陰では懸命に努力しているということです。
穏やかに笑っていますが、意外といっぱいいっぱいなんですよ。
誰か、近くにいる人が、1人でもそれをわかっていて欲しいのです」

ユウリは胸の奥が熱くなるのを感じた。
努力を見せず、周囲に気を遣いながら、自分の限界を超えて頑張る少女――


ナタリーさんはティアナお嬢様を切実そうな顔で見つめていた。
きっと、とても心配しているのだろう。

「それでは、夜遅くまで引き留めてしまってごめんなさいね。
あと1日、よろしくお願いしますね」

「はい、失礼致します」

ナタリーさんと別れ、あと1日でお嬢様の執事としての任務が終わる。
だが、心のどこかで――終わってほしくない。
私は……あの破天荒で、お茶目で、どうしようもなく優しく、そして努力家なティアナお嬢様のそばにいたい――そう強く思った。

そして最終日。
ティアナお嬢様の元へ向かうと、早起きしたにも関わらず、自室にはいなかった。
昨日、遅くまで図書室で勉強していたはずなのに――。

もしかすると馬小屋か、剣術の稽古か……。
急いで窓の方を覗くと、そこにお嬢様の姿が見えた。
駆け足で追いかけながら声をかける。

「ティアナお嬢様、おはようございます」

「ユウリ。おはよう。早いのね」
ニコリと微笑むティアナお嬢様。
昨日の夜遅くまで勉強していたはずなのに、表情には全く疲れが見えない。
ただ、よく見ると瞼の下に少しだけクマがある。
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