夜明けが世界を染めるころ
目の前の彼女も、子供だと思う。
年も、背丈も、世間知らずなところも。

……なのに。

どうしてだろう。
俺より、ずっと大人に見えた。

(俺は……やり直せるのか?)

喉の奥で引っかかっていた言葉が、
気づけば、ぽつりと零れていた。

「……俺、真っ当に生きれるかな」

自分でも驚くほど、弱い声だった。

彼女は少しだけ考えるように首を傾げてから、
はっきりと言った。

「それは、あなた次第だけど」

一瞬、胸が冷える。

でも、すぐに続く。

「あなたが、私の騎士になってくれるのなら――」

彼女は一歩近づき、
まるで当たり前の未来を語るみたいに言った。

「私は、あなたが生きてて良かったって思えるように、
楽しいことも、嬉しいことも、
いろんなことを教えてあげる!」

眩しいほど、まっすぐな声。

「だから――一緒に生きましょう」

……なんだ、それ。

そんな言葉、
今まで一度も向けられたことがない。

打算も、疑いも、恐れもない。
ただ、善意だけで形作られた笑顔。

俺は、思わず手を伸ばしかけた。

――この人の手を取っても、いいのか?

その瞬間。

【お前みたいな汚ねぇドブネズミが、
 他で生きられるわけないだろ】

頭の奥で、低く嗤う声が蘇る。

【だから俺の言うことを聞いてればいいんだ】

……そうだ。

俺は、そうやって生きてきた。
従って、汚れて、血に染まって。

今さら、
「やり直し」なんて――

手を、引っ込めようとした。

その時。

ぐいっ、と。

迷いを許さない力で、
彼女の手が、俺の手を掴んだ。

細いのに、驚くほど力強い。
綺麗で、温かい手。

逃げる隙なんて、与えない。

「私は――」

彼女は、にっこり笑って言った。

「ティアナ・ラピスラズリよ」

その瞳が、まっすぐ俺を映す。
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