夜明けが世界を染めるころ
「テオ、すごいね!
覚えが早いよ」

訓練の合間、
お嬢様は屈託なくそう言って笑った。

「……これくらい、普通だよ、お嬢様」

そう答えたけれど、
胸の奥が、少しだけ温かくなる。

お嬢様は、よく褒めてくれた。
小さなことでも、できたらちゃんと見てくれる。

……その分。

セナは、いつも厳しかった。

「構えが甘い」

「踏み込みが遅い」

「気を抜くな。命を守る立場だと自覚しろ」

声は低く、表情も変わらない。
情け容赦なしだ。

でも、不思議と――
理不尽だとは思わなかった。

ある日、
お嬢様から騎士寮の一室を貸してもらえることになった。

石造りの建物。
簡素な部屋。

それでも、
屋根があって、鍵があって、
“俺の場所”と呼べる空間だった。

第3騎士団の連中は、
俺を見るなり、やたら距離が近い。

「お、噂の新人?」

「赤い目だな!」

「名前は?」

気味悪がられると思っていたのに、
そんな素振りは一切ない。

無視しても、
勝手に話しかけてくる。

……どういう神経してるんだ。

後になって、ユウリから聞いた。

お嬢様が、
この家の当主に直談判してくれたこと。

「置いてください、って?」

「そう。かなり本気でしたよ」

条件も、あった。

期限は1年。

1年以内に、
俺が正式に騎士団員として認められなければ、
ここにはいられない。

――当然だ。

だから、
死にものぐるいでやらなければならない。

お嬢様のそばにいるために。

食事は、
騎士団員用の食堂を使うように言われた。

……でも。

まだ、俺は騎士団員じゃない。

居候が、
当然のように席に着くのは違うと思った。

だから、数日は――
訓練の合間に、敷地の端で野草を摘んで食べていた。

苦い。
硬い。
でも、慣れている。

(これくらい……)

生きるためなら、平気だ。
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