夜明けが世界を染めるころ
「おい、何事だ」

低く通る声。

「どうしたのよ」

少し慌てた、聞き慣れた声。

「よかった……!
セナさん! お嬢さま!」

騎士団員たちが、ほっとしたように2人のもとへ駆け寄る。

状況を見渡したセナが、眉をひそめた。

「説明しろ」

「そのガキが!」

レオが、腕を組んだまま声を荒げる。

「俺の飯が食えないって言ったんだ!
俺みたいな平民が作ったから、嫌ってことだろ?」

「違う」

即座に、声が出た。

「俺は……何も、なせてない」

喉がひりつく。

「お嬢様に、騎士になれって言われたのに……
俺は、何もできてないから」

言い切った瞬間。
沈黙
そして…

「……はあぁぁ!?」

「……あー」

「……うーん、そう来たか」

レオ、セナ、そしてお嬢様まで、
揃って頭を抱えた。

(……え?)

お嬢様は俺のそばまで歩み寄ると、
しゃがんで、目線を合わせた。

「ねぇ、テオ」

声は、叱るでも呆れるでもない。

「騎士になって、とは言ったけどね」

ゆっくり、噛み砕くように言う。

「騎士になるためには、剣の腕だけじゃ足りないの」

「……」

「ちゃんと食べて、ちゃんと休んで、
体も、心も、健康でなくちゃ――
騎士にはなれないわ」

「……そう、なの?」

思わず、聞き返していた。

「そうよ」

即答だった。

「それにね」

少しだけ、困ったように笑う。

「あなたが痩せてたら、
『主人は、騎士にする相手にまともにご飯もあげない悪い人だ』
って言われるの」

胸が、どくっと鳴る。

「テオは……
私が、そう言われてもいいの?」

「……いやだ」

即答だった。

そんなの、違う。

俺のせいで、
お嬢様が悪く言われるなんて、
絶対に嫌だ。

その答えに、
お嬢様はほっとしたように微笑む。

「でしょう?」

そして、少しだけ真剣な顔になる。

「だからね、テオ」

「ご飯を食べるのも、
休むのも、
“騎士の仕事”なの」

その言葉が、
胸の奥に、すとんと落ちた。

今まで、
“耐えること”しか知らなかった俺にとって、
初めて聞く考え方だった。
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