夜明けが世界を染めるころ
アルフレッド家の昼食会に到着した。
ドレスの仕立てや宝飾の話、形だけの政治談義がひと通り交わされたあと、話題は自然と最近の噂話へ移っていく。

「最近、怪しい宝石が出回ってるって話聞きました?」
そう切り出した令嬢に、周囲が一斉に頷いた。

「ええ。買ってから、人が変わったようになるんですって」
「急に気が荒くなったり、別人みたいに冷たくなったり……」
「中には、同じ宝石を手放そうとしなくなる方もいるとか」

ひそひそと声が重なり、空気がわずかに冷える。

「ただの偽物、というより……何か施されている石だと聞きましたわ」
「鑑定士も首をかしげているそうです。普通の宝石ではない、と」

——なるほど。
品質の問題だけでは説明がつかない、というわけね。

「騎士団が内々に調べている、なんて噂もありますわ」
「商会が関わっている可能性も……」

情報は断片的だが、どれも無視できない。
しかしその緊張も長くは続かず、話題はあっさり殿方の噂へと移り、昼食会はあっという間にお開きとなった。


——もう午後3時か。

「セナ、ちょっとお茶してから帰ろう」

「いいですが……あまり召し上がれなかったのですか?」

ご令嬢同士の集まりだったため、セナは少し離れた場所で控えていた。私の様子までは見えていなかったのだろう。

「淑女たちは、食事より殿方に興味があるみたい」

宝石の不穏な噂よりも、政治の話よりも。
私が連れてきたセナの存在のほうが、よほど注目を集めていた。

カフェの前に到着し、軽食をとったあと、ドーナツを3袋に分けて包んでもらう。

それを見たセナが口を開いた。

「そんなに食べたら、お嬢様でも太りますよ」

「誰が全部食べるって言ったの。そんなわけないでしょうが」

1袋はトムおじさんに。
さらに、こっそり忍ばせていたにんじんを取り出し、リントとランにも手渡した。
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