夜明けが世界を染めるころ
「殿下、失礼いたします。ティアナ様をお連れしました」

「うん、待っていたよ」

すでに席についていた殿下は、穏やかな笑みを浮かべてこちらを見る。

「お待たせいたしました。ドレスまでご用意いただき、ありがとうございます」

「気にしないでくれ。とてもよく似合っている」

さらりと言われて、思わず視線を逸らしてしまう。

レイさんが椅子を引いてくれ、殿下と向かい合う形で席に着く。

「殿下。トワ様がお休みになられたため、ユウリ様とルイ様はお部屋でお食事を取るよう手配いたしました」

「そうか。きっと疲れたのだろう」

短く、だが思いやりのある返答だった。

そのとき――

「失礼しまーす! お食事お持ちしました!」

元気いっぱいの声と共に、レオが入ってくる。
殿下の前だというのに、まるで気後れした様子がない。

……ある意味、すごい。

事情はすでに伝わっているようで、2人分の料理を手際よく並べていく。

「美味しそうだね」

殿下が素直に感想を漏らす。

「ありがとうございます!
前菜は、スモークサーモンとクリームチーズのカクテルサラダ、それから帆立貝のパートフィロー包み、鴨肉のカルパッチョです!」

色とりどりに盛り付けられた料理は、目にも楽しい。
香りもよく、自然と食欲をそそられる。

――さすが、レオ。

殿下はしばらく料理を眺めてから、私に視線を向けた。

「では、いただきましょう」

「はい、いただきます」

一口運ぶ。

……おいしい。

さすがレオだ。
思わずナプキンで口元を拭いながら、殿下には見えないよう膝の下で小さくガッツポーズをする。
それに気づいたレオが、誇らしげに胸を張った。

「素晴らしい。とても美味しいよ」

殿下は感心したように頷く。

「彩りも鮮やかで、見た目も美しい。
慣れない環境と限られた時間の中で、ここまで仕上げられるとは……さすがだね。
本当にスカウトしたくなる」

「いえ! ご用意してくださった材料が一流品ばかりでしたし、
周りの方々もとても親切で……楽しく作れました!」

レオは屈託なく笑う。

「でも、俺はお嬢様の専属料理人なので!
スカウトされても行きませんよ!」

……レオ、ありがとう。
引き抜かれたら、本当に困る。

「冗談だよ」

殿下が肩をすくめる。

「可愛い顔でこちらを威嚇する子猫がいるからね」

――誰が子猫だ。まったく。

食事は滞りなく進み、スープを飲み終えたころまたレオが入ってきた。良い香り。


「それでは、次はメインです。
牛フィレ肉のソテー、赤ワインソース添えになります」

レオが皿を並べた、その瞬間。

ゴロゴロ――
ガシャーン。

雷鳴が屋敷を揺らす。

ひどい嵐だ……と、そう思ったのも束の間だった。

――バンッ!

勢いよく扉が開く音が響き、思わずそちらを見る。

空気が、一瞬で変わった。
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