夜明けが世界を染めるころ
「ねえ……殿下ぁ」
少し間延びした声で呼ぶ。
「あなた、サーフェス……でしょ?」
「誰だい、それは?」
いつもの、はぐらかす声。
「見た目や声は変えられても……人の癖は、そう簡単には変えられないものですよ、殿下」
殿下は何も言わない。
だから、私はそのまま続ける。
「私、馬の見分け方も得意なんです」
ふにゃっと笑って指を立てる。
「伯爵家で所有している馬の名前、全部間違えずに言えますよ」
「へぇ、それはすごいね」
そう言いながら、殿下は自然に腕を組んだ。
――きた。
「……それですよ、殿下」
私はくすっと笑い、殿下の腕へ視線を落とす。
「人を試すとき、殿下は必ず一度腕を組んでから、人差し指で“トン”って叩くんです。無意識でしょうけど……考えを測るときの癖」
その瞬間、殿下の指が止まった。
ほんの一拍。
でも、それだけで十分だった。
「……そこまで見ているとは思わなかったな」
意味深に笑いながら、ゆっくりと腕を解く。
まるで、その癖を指摘されたこと自体が痛手だったみたいに。
「見た目や声は誤魔化せても……長年染みついた仕草までは変えられないんです」
私は、静かに言い切った。
殿下は小さく息を吐き、苦笑する。
「はは……まいった。確かに、君の言う通りだ」
一拍置いて、視線をこちらに戻す。
「さすがだよ、ティアナ嬢――いや、ルナ」
その呼び方に、もう探る色はない。
私は少しだけ距離を詰める。
酔っているから、ということにして。
「ねえ、サーフェス」
声は柔らかいのに、言葉は逃がさない。
「あなた、私と共闘しないかって言いましたよね」
「ああ、言ったね」
「……でも」
私は小さく首を振る。
「私、自分の命を大事にしない人とは嫌です」
殿下の表情が、わずかに揺れる。
「いい加減……本音で話してください」
胸元を、指で軽く押すようにして。
「それから――自分を大切にすると、誓ってください」
ふわふわしているのに、退く気はない。
酔っているからこそ、誤魔化さずに言えた言葉だった。
少し間延びした声で呼ぶ。
「あなた、サーフェス……でしょ?」
「誰だい、それは?」
いつもの、はぐらかす声。
「見た目や声は変えられても……人の癖は、そう簡単には変えられないものですよ、殿下」
殿下は何も言わない。
だから、私はそのまま続ける。
「私、馬の見分け方も得意なんです」
ふにゃっと笑って指を立てる。
「伯爵家で所有している馬の名前、全部間違えずに言えますよ」
「へぇ、それはすごいね」
そう言いながら、殿下は自然に腕を組んだ。
――きた。
「……それですよ、殿下」
私はくすっと笑い、殿下の腕へ視線を落とす。
「人を試すとき、殿下は必ず一度腕を組んでから、人差し指で“トン”って叩くんです。無意識でしょうけど……考えを測るときの癖」
その瞬間、殿下の指が止まった。
ほんの一拍。
でも、それだけで十分だった。
「……そこまで見ているとは思わなかったな」
意味深に笑いながら、ゆっくりと腕を解く。
まるで、その癖を指摘されたこと自体が痛手だったみたいに。
「見た目や声は誤魔化せても……長年染みついた仕草までは変えられないんです」
私は、静かに言い切った。
殿下は小さく息を吐き、苦笑する。
「はは……まいった。確かに、君の言う通りだ」
一拍置いて、視線をこちらに戻す。
「さすがだよ、ティアナ嬢――いや、ルナ」
その呼び方に、もう探る色はない。
私は少しだけ距離を詰める。
酔っているから、ということにして。
「ねえ、サーフェス」
声は柔らかいのに、言葉は逃がさない。
「あなた、私と共闘しないかって言いましたよね」
「ああ、言ったね」
「……でも」
私は小さく首を振る。
「私、自分の命を大事にしない人とは嫌です」
殿下の表情が、わずかに揺れる。
「いい加減……本音で話してください」
胸元を、指で軽く押すようにして。
「それから――自分を大切にすると、誓ってください」
ふわふわしているのに、退く気はない。
酔っているからこそ、誤魔化さずに言えた言葉だった。