夜明けが世界を染めるころ
私はすっと息を吸い、目の前の人物を真っ直ぐと見つめる。

「殿下は…自分の命を軽んじてるでしょ?
パーティーの時もそうですよ。罠だってわかっているくせについていくし、さっきの出来事でも同じ。
命が狙われても、不安も恐怖もない。表に出さないようにしているわけでもない。そもそも、何も感じていないでしょう」

私は殿下の足の間に自分の膝をそっと乗せ、ソファが小さく軋む。

そう、私が殿下を苦手というか、嫌いではないけど好まない理由はここにある。
殿下はちっとも自分を大事にしていない。
本当に、目の前にある石ころレベルにしか、自分の命を考えていないのではないかと思える。

「そうかもしれないね」
薄ら笑いを浮かべる殿下。

「でも殿下にも、大切な人がいるでしょう?
あなたが命を粗末にすれば、悲しむ人がいるはずです」

「うーん、どうかな。私がいなくて喜びそうな人もいるけどね」
そして、少し考えてから殿下が言葉を続ける。

「なら、君は――もし私が死んだら、悲しむかい?」

「……悲しいですよ」

思ったよりも、声がはっきり出た。

「知っている人がいなくなったら、それだけで悲しいです。
それが、殿下ならなおさら」

殿下は一瞬だけ、言葉を失ったように目を瞬かせる。

「立場とか、王族とか関係なく。
あなたは私に本をくれたし、助言もくれたし、見ないふりもしてくれた」

ふわふわする頭で、でも言葉だけは止まらない。
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