夜明けが世界を染めるころ
ティアナ嬢に初めて会ったのは、10歳の頃だった。
伯爵家へ挨拶に行ったときのことだ。
当時のティアナ嬢はまだ5歳ほどだっただろうか。

女の子なのに、顔を泥まみれにして土いじりをし、馬の世話をし、剣の真似事までしていた。
その姿は、お転婆で頭の悪そうな子、という印象を僕に与えた。

「レイ、どうして女の子が馬術や剣術までやっているんだ?」
僕は普通に疑問に思った。
女の子なら、ドレスに着飾り、紅茶でも嗜んでいればいいはずだ。
いずれ結婚するんだ、今やっていることは何の意味もないはずだ、と。

「うーん、何ででしょうね。何か野望でもあるのでしょうか」
側近のレイも首を傾げる。

「ふーん」
まあ、どうでもいいや。

だが、何度か伯爵家へ通ううちに、拙かった彼女の剣術や馬術はみるみる上達していった。それは目を見張るほどだった。

「勿体ないな……あれが男だったら、当主になれただろうに」
ラピスラズリ伯爵家には長男のマルクという少年がいた。
あれは、ただのアホだ。
彼女が男だったなら、間違いなく当主になる人材だっただろうに、と思った。

「珍しいですね、王子が他人を気にするなんて」

そう言われたが、別に気にしたつもりはない。

「ただ、その方がマシだと思っただけだ」

ある日、父を待っている間に庭を散策していると、木剣を素振りしている彼女とバッタリ出会ってしまった。
とりあえず、よそ行きの笑顔を貼り付ける。作り笑顔も、随分と得意になったものだ。

「初めまして、ディラン・アレキサンドライトと申します」

木剣を下ろし、汗を拭う彼女。

「初めまして。このような格好で失礼致します。ティアナ・ラピスラズリと申します」

動きやすいシャツとズボン姿だったが、所作は整っていて綺麗だ。話し方もきちんとしており、礼儀知らずだろうと勝手に決めつけていた自分を少し恥ずかしく思った。

「ティアナ嬢は、剣を習っているのですね」

当たり障りのない会話を選んでみる。

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