夜明けが世界を染めるころ
「ええ、中々難しいものですね。剣を振り下ろすと身体まで持って行かれて、力がうまく入らないんですよ。やっぱり筋肉をつけないとダメですかね」

彼女は腕をまくり、握った拳に力を込める。

「剣を構えてみてください」
木剣を素直に構えるティアナ嬢。

「こうですか?」

「後ろから失礼します」
気まぐれに、彼女の後ろに回り木剣を握る。

「はい」

「まず手の位置。そして姿勢を真っ直ぐにして、お腹に力を入れて。それから重心を下に。はい、こうですね」

小柄な彼女にとって木剣は重たく、長いため扱いにくいはずだ。
剣を振れば重心がぶれて、剣先の力も分散してしまう。だからこそ、まず剣を持つ位置を修正する必要がある。

「そう、そんな感じです。じゃあ、振ってみて」

その言葉に、ティアナ嬢は真っ直ぐ、力強く木剣を振り下ろした。
見るからに筋が良さそうだ。

「す、すごいです!!ありがとうございます!」

眩しいほどの笑顔を向けられ、思わず狼狽えた。

「いえ、それより、何故剣を?」

聞いておきながら少し失礼だったかもしれないと思ったが、彼女は気にしていない様子だった。

「出来ることは何でもやってみようと思いまして。剣が扱える女性って、かっこよくないですか?」

ノリノリで木剣を構えるティアナ嬢。

「そうですね。でも、もし男だったら良かったと思ったことはありますか?」

努力しても、伯爵家に生まれたら当主にはなれない。結婚するしかない。そうなると、剣の腕を磨いても仕方がないのでは、と思ったのだ。

「うーん、確かに男だったら筋肉ムキムキになって、重たいものもいっぱい持ててかっこいいですよね!」

「そうですね……」
なんだか少しズレている気がした。

「でも、私は私だから、他の誰かになりたいとか、性別に囚われたりはしません。
私は自分の出来ることを精一杯やります。
無駄な努力かどうかは、私が決めます」

凛とした彼女の言葉を聞いてから、伯爵家に訪れるたび、つい彼女を探すようになった。
だが、その後は両親が亡くなくなり、忙しくもなりゆっくり会話をする機会はほとんどなかった。
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