夜明けが世界を染めるころ
「あの、私に処罰とかありますか?」

「とんでもない。こちらの不手際でワインを飲ませてしまい、申し訳ありません……お気になさらず」

レイさんの言葉に、ほっと胸を撫で下ろす。
はぁあ、良かった――。
これがもし父の耳にでも入ったら、しんどすぎる。

「私もティアナ嬢の貴重な意見が聞けて勉強になったよ。これからは、ストレートにいくつもりだから覚悟してね」

――いや、何の覚悟よ。
思わず心の中で突っ込みを入れる。

ささっと殿下の部屋から出た後、自室に戻ると、ちょうどユウリと出くわした。

「お嬢様、いままでどちらに?」

「いや、あの……」
言いにくそうに言葉を濁す私を、ユウリはじっと見つめる。

「まさか、殿下の部屋にいたのですか?」

「あの、これには理由がぁぁ……!」
思わず絶叫する私に、ユウリは落ち着いた声で宥める。

「とりあえず、部屋の中でどうぞ」

――はぁ、どうしよう、落ち着かなくて心臓がまだバクバクしてる。
でも、ユウリがいるだけで少しだけ安心する。


昨夜の出来事を説明する流れになった。

「まさか……お酒、飲んだんですね」

静かだけど、圧がすごい。
その一言だけで、昨日の記憶がフラッシュバックしかける。

「はい」

即答。言い訳する気力はもうない。

あー……と、ユウリは分かりやすく頭を抱えた。
その反応、完全に「やらかした部下を見る上司」だ。

「これは私の責任ですね。本当に……何もなかったですね?」

来た。核心確認タイム。
私はぶんぶんと首を振る。

「うん、大丈夫だよ。だって殿下だよ?
選び放題の殿下が、私に手を出すわけないでしょ!」

……言い切ったけど、今さらながら自分で言ってて失礼じゃない?
いやでも事実だし。多分。きっと。

「……わりと一番要注意人物なんですけどね」

「なに?」

今、さらっと怖いこと言わなかった?
聞き返すと、ユウリは何事もなかったかのように続ける。

「まあ、いいです。でも、よく眠れたようですね」

確かに。
意外にもぐっすり眠れて、目覚めはすこぶる良好。二日酔いゼロ。
……殿下の部屋で爆睡してたはずなのに、この快適さは何?

盛大にやらかした自覚はあるけど、体調だけは完璧だった。

私は気持ちを切り替え、身支度を整えながら荷物をまとめる。
昨夜の自分、頼むからもう二度と酒を飲むな。

そのとき、

コンコン。

控えめなノックの音。

「おはようございます」

「あ、トワ。おはよう」

「昨日は先に寝てしまって、すみません。起きたころには、もうお姉様はいらっしゃらなくて」

申し訳なさそうな顔。
その純度の高い謝罪、私の荒れた心に効く。

「いいのよ。疲れてたんでしょう?仕方ないわ」

「すごく楽しみにしていたので……少し残念です」

……その一言で罪悪感が増すんだけど。
私、何してたんだろうね昨夜。

すると、空気を読まない声が飛んできた。

「あれー、トワ坊ちゃん。俺たちと楽しい夜を過ごしたじゃないっスか!」

楽しそうに話すレオ。

「もちろん、トランプは楽しかったですよ!
ユウリさんが一番強かったですよね」

「それはまあ……経験値ですね」

さらっと答えるユウリ。
いや経験値って何年生きてたらそんな強さになるの。

「ほんと、すごく強かったわよね」

ルイが言うと、レオは悔しそうに拳を握る。

「俺もまたリベンジしますよ!」

どうやら私が記憶を飛ばし、人生の反省をしている間に、
4人は4人で健全かつ平和な夜を過ごしていたらしい。

……うん、よかった。
少なくとも黒歴史は、私一人分で済んだようだ。
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