夜明けが世界を染めるころ
「やあ、ティアナ嬢」

無駄にキラキラした笑顔を向けてくる。

「……殿下」

昨日の後処理もあったはずなのに。
そのわりに、ずいぶん爽やかだ。

「今日はお会いする約束はしていないはずですが」

「つれないな」

軽く肩をすくめる殿下。
でも、今後のことも話したい。
私は一歩も引かず、視線を合わせる。

「聞きたいことがあります。話す気、ありますか?」

殿下は一瞬だけ目を細め、それから楽しそうに笑った。

「もちろん。何でも話そう。
だがその前に、君に伝えたいことがあってね」

意味深な微笑み。
……嫌な予感しかしない。

「何でしょう……」

次の瞬間。

殿下が、私の目の前で跪いた。
そして、そっと私の手を取る。

――え?
な、何事!?

「双輝アレキサンドライト王国 第一王子、ディラン・アレキサンドライトは…
蒼紋ラピスラズリ伯爵家 長女、ティアナ・ラピスラズリ嬢に」

一拍置いて、はっきりと言い切る。

「結婚の申し入れに参りました」

「……はっ?」

「ティアナ嬢 私と、結婚してくれないか?」

爽やかすぎる笑顔。
理解が追いつかず、完全に思考が停止する。

「「「はぁあああああ!?」」」

周囲から、発狂したような叫び声が一斉に上がった。

……それはそうなる。

私はまだ、殿下に掴まれたままの手を見下ろしながら、
心の中で静かに叫んだ。

――話したいこと、そういう方向じゃない。
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