夜明けが世界を染めるころ
よし、とりあえずひと段落。黒いモヤの残る宝石は、別にしておこう。
そう思った瞬間、まるで狙ったかのように扉がコンコンとノックされた。
「どうぞ」
「おはようございます、お嬢様。……また朝早くからお仕事ですか。昨日もお戻り、遅かったですよね?」
入ってくるなり小言。
けれどその手は止まらず、空になった食器を次々と片付けていく。
焦茶色のボブヘアが、肩口で静かに揺れている。
派手さはないが、丁寧に整えられた髪は清潔で、
月明かりを含んだような柔らかな艶を帯びていた。
灰色の瞳は淡く、
光の加減で銀にも薄藍にも見える。
私の専属侍女のアリスだ。
仕事は早く、判断も的確――その分、口もなかなか辛辣。
「ははは……」
曖昧に笑ってごまかし、椅子から立ち上がる。
「……ん、腰が痛い」
「同じ姿勢で何時間も座っていれば、当然です」
容赦ない即答だった。
書斎を後にし、アリスの後ろについて化粧室へ向かう。
歩きながら、今日の予定を頭の中で整理する。
――街に出て、市民向けに売り出した品の確認。
それからアルフレッド家での昼食会。
「……っ」
考えごとに夢中になりすぎた。
前を歩いていたアリスに、思いきりぶつかる。
「う、う――」
「おはようございます、マリアンヌ様」
凛とした声が、真正面から降ってくる。
アリスがすっと脇に下がり、綺麗なお辞儀をした。
私は反射的に鼻を押さえた。
――ジャスミン。
しかも、かなり強い。
この香りを好む人物は、限られている。
アリスを手にしていた扇子で軽く押しのけ、その先を見る。
派手なメイク、過剰な装飾、視線に混じる遠慮のなさ。
その人物と、ばっちり目が合った。
そう思った瞬間、まるで狙ったかのように扉がコンコンとノックされた。
「どうぞ」
「おはようございます、お嬢様。……また朝早くからお仕事ですか。昨日もお戻り、遅かったですよね?」
入ってくるなり小言。
けれどその手は止まらず、空になった食器を次々と片付けていく。
焦茶色のボブヘアが、肩口で静かに揺れている。
派手さはないが、丁寧に整えられた髪は清潔で、
月明かりを含んだような柔らかな艶を帯びていた。
灰色の瞳は淡く、
光の加減で銀にも薄藍にも見える。
私の専属侍女のアリスだ。
仕事は早く、判断も的確――その分、口もなかなか辛辣。
「ははは……」
曖昧に笑ってごまかし、椅子から立ち上がる。
「……ん、腰が痛い」
「同じ姿勢で何時間も座っていれば、当然です」
容赦ない即答だった。
書斎を後にし、アリスの後ろについて化粧室へ向かう。
歩きながら、今日の予定を頭の中で整理する。
――街に出て、市民向けに売り出した品の確認。
それからアルフレッド家での昼食会。
「……っ」
考えごとに夢中になりすぎた。
前を歩いていたアリスに、思いきりぶつかる。
「う、う――」
「おはようございます、マリアンヌ様」
凛とした声が、真正面から降ってくる。
アリスがすっと脇に下がり、綺麗なお辞儀をした。
私は反射的に鼻を押さえた。
――ジャスミン。
しかも、かなり強い。
この香りを好む人物は、限られている。
アリスを手にしていた扇子で軽く押しのけ、その先を見る。
派手なメイク、過剰な装飾、視線に混じる遠慮のなさ。
その人物と、ばっちり目が合った。