夜明けが世界を染めるころ
「おはようございます…お母様」

丁寧に一礼する。

「まだ身支度も整えていないの?淑女として恥ずかしいと思わない?」

扇子で口元を隠し、冷たい視線を向けてくる。
その目にさらされるのは、もう慣れっこだった。

私の格好といえば、下ろした髪にカチューシャ、ブラウスにロングスカート。
寝巻きではないが、正装とは言いがたい。
華やかなドレスに宝石をこれでもかと飾った母と並べば、
そう言われても仕方がないのかもしれない。

「お見苦しいところをお見せし、申し訳ありません。
急ぎの用がありますので、これにて失礼いたします」

さっさと立ち去ろうとした、その背に――
気に入らなかったのだろう、刺すような声が投げつけられる。

「急ぎの用、ね。
女のくせに主人の真似事などして……無意味だというのに、本当にご苦労なこと」

胸の奥で、小さく息を吐く。

男ではない私は、この家を継げない。
だから父の仕事を手伝っているだけ――
それを、母は滑稽だと思っているのだろう。


何をしても無駄だと。
私はただ、この家に貢献し、
いずれは“都合よく結婚させられるための道具”に過ぎないと。

皮肉たっぷりの嫌味。
けれど、不思議と心は痛まなかった。
もう慣れてしまった。

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