夜明けが世界を染めるころ
朝食会の後、午前中に書類仕事を片付け、昨日の報告書を父に渡すため書斎へ向かう。
もし父が不在なら、執事のスミスさんに頼むつもりだった。だが、どうやら今日はタイミングが悪く、父はいるらしい。
先程の朝食会の件もあり、あまり顔を合わせたくないんだけどな。

ノックを控えめに打ち、声に応答があったのでドアを開ける。

「…入れ」

少し冷たい声に、背筋が自然に伸びる。

「失礼致します。昨日の報告書と、以前ご依頼いただいていた書類になります」
手を揃え、きれいにまとめた書類を差し出す。

父は書類を軽く手に取り、パラパラと目を通していく。
「よくできてる、早かったな」

そう言うと、サインをした書類を隣に控えているスミスさんに手渡す。
スミスさんは執事長を務める大ベテランで、動作の一つ一つに落ち着きと威厳がある。

心の中で、ため息が漏れる。
――こちとら貴方から頼まれた仕事で、睡眠を削ってるんですよ。
女だから、と何かあるたびに能力を疑われる立場にいる。
できて当然、できなければ後ろ指を指される――そんな日常だ。

「全く、お前が男なら迷わず次期当主にするんだかな」

父は本気で残念がる顔をする。
またか――毎度同じことを言われるけれど、少し悔しくもあり、どこか呆れも混じる。

特に返事はせず、無言で話を聞く。
確かに、男だったら――と思うことはある。武術を嗜めば、長い手足が欲しいと思うし、力の差を比べれば男と女では全然違う。
だが、私は女でも悪くないと思う。身軽さを武器にできることもあるし、
何より、きれいなドレスに身を包み、ヒールで歩くことの楽しさも知っているのだ。

「――あいつはダメだ、遊んでばかりで次期当主の自覚がまるでない。自分でやっていない事をやったように話す」

マルクは遊んでばかりだもんな。辺境の地への視察に騎士たちだけを派遣し、自分は何もしていなかったこともあった。
父にはそのこともお見通しのようだ。まあ、父の息がかかった騎士たちが数名おり、逐一報告しているのだから当然だろう。

私自身も、騎士たちに泣きつかれ、彼の尻拭いを随分としてきた。
だが、蔑ろにできないのは、妻であるマリアンヌが名高い貴族の出身だからだ。

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