夜明けが世界を染めるころ
そろそろ痺れを切らし、口を開きかけたその時――

「この後は、騎士団に行くのか?」

「はい、少し体を動かしてきます」

「そうか、ケガはしないようにな」

そこまでなら、娘を思いやる父の声に感じられ、お礼を言おうかと思った。だが、すぐに言葉が飲み込まれる。

「お前も良い歳だ、顔や体に傷をつけるなよ。
あと、あまり騎士団の連中と馴れ合うな。いずれ結婚相手を見つけなければならないのだからな」

結局この人にとって、私はただの駒なのだろう。
結婚し、子を産み、ラピスラズリ家を安泰に導く――それが私の役目であり、まあ、それ自体は嫌ではない。領地の人々のことも、私は大切に思っているのだから。

だが、私はただの大人しく従う花嫁ではない。
嫁いだ先でも、ラピスラズリ家でも、共に肩を並べ、互いに支え合える関係でありたい。
それが、私の務めであり、誇りでもあるのだ。

「お気遣いありがとうございます」
何でもないと装い、淡々と一言口にし書斎を後にしょうとすると声がかかる。

「朝食会で言ったこと忘れるなよ。絶対に関わるな」

宝石事件のことね。
くるっと向きを変えニコリと微笑む。

「もちろんです」

取り繕った笑顔は完璧な淑女だ。
これ以上何も言わせないよう書斎から出た。

日の光が陰り廊下が冷たく感じられ、一歩一歩、書斎から遠ざかる足取りが重い。
頭の中で、父の声とあの宝石事件の光景が交錯する。

――関わるな。
だが、見過ごすわけにはいかない。
私は小さく息を吐き、心を落ち着けた。
どんなに釘を刺されようと、この手で守らねばならないものがある――

やっと書類仕事も、小言がうるさい父からも解放された。
まだやることはあるが、まず優先すべきは身体を動かすことだ。

自室に戻り、動きやすいシャツとズボン、ショートブーツに着替える。
髪はポニーテールにまとめ、身支度を整えた。
レオに頼んでいた差し入れを手に、騎士団へ向かう。
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