夜明けが世界を染めるころ
テオが去ったあと、
部屋の空気が、目に見えて変わった。

ユウリは静かに窓を閉め、
鍵を確認する。

――かちり。

その音が、
やけに重く響いた。

「お嬢様」

振り返ったユウリは、
いつもの柔らかさを一切削ぎ落とした表情をしていた。

「ここからは、
本気の療養体制に入ります」

「……本気?」

「はい」

迷いのない即答。

「まず」

一歩近づいて、
額に手を当てられる。

「熱は下がりつつありますが、
まだ平熱ではありません」

「それから」

手首を取られ、
脈を測られる。

「心拍数がやや高い。
不要な会話、刺激は禁止です」

「え、でも――」

「禁止です」

ぴしゃり。

……逃げ道がない。

「次」

そう言って、
ベッドの位置を微調整し、
枕を整える。

「横になってください」

「もう少し起きてても――」

「横に」

有無を言わせない声音。

大人しく従うと、
布団を丁寧に掛け直される。

「喉は?」

「……少し乾いてます」


すぐに水差しが差し出される。

「一口ずつ」

見張られている気がして、
ゆっくり飲む。

「よろしい」

満足そうに頷くと、
ユウリは椅子をベッド脇に引いた。

「本日は、
30分おきに様子を確認します」

「え……?」

「当然です」

涼しい顔で言い切る。

「殿下にも、
今夜は面会を制限すると伝えました」

「……ディランに?」

一瞬、胸がざわつく。

「必要とあらば、
私が説明しますのでご安心ください」

……それはそれで、
あとが怖い気もする。

「お嬢様」

ふいに、
声のトーンが少しだけ柔らかくなる。

「お嬢様は、
ご自身を後回しにしすぎです」

「皆を守ることも大切ですが」

「倒れてしまっては、
守れるものも守れません」

その言葉に、
何も言い返せなくなる。

「今は、
守られる側でいてください」

「それが――」

一瞬、
視線が優しくなる。

「皆の願いですから」

ユウリはそう言って、
静かに椅子に腰かけた。

逃げられない。
こういう時のユウリは一歩も引かないんだよな。
でも、不思議と――

あんなに寝たのに安心して、
目を閉じられそうだった。
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