夜明けが世界を染めるころ
ユウリと入れ違いに、レオが部屋へ入ってきた。
「お嬢さーん、おはよう!
調子はどう??」
そう言いながら、レオは両手に抱えた籠を持ち上げる。
「りんごゼリーも作ってきたんだ!」
「……あれ、殿下もいる」
少しだけ目を丸くしたあと、すぐにいつもの笑顔に戻る。
にこにこと人懐っこい笑顔のまま、レオは部屋の中へ入ってきた。
テーブルに籠を置くと、透明な器に入った淡い琥珀色のゼリーが、朝の光を受けてきらりと揺れる。
「喉ごしがいいように、少し柔らかめにしてあるんだ。
お嬢さん、食べられそう?」
「……うん」
私がそう答えると、レオは嬉しそうに頷いた。
レオは器を手に取ると、にこっと笑って私のそばに腰を下ろした。
「じゃ、俺が食べさせますね。
ほら、りんごゼリー。冷たすぎないから」
「ありがとう……」
スプーンが口元へ近づいた、その瞬間。
「待て」
低い声が割り込む。
レオの手がぴたりと止まった。
「……殿下?」
ディランは一歩前に出て、静かに言う。
「私がやろう」
「え? いいですよ!?殿下ずっと付き添ってて疲れちゃったでしょ!」
「疲れてないよ」
「いや、いいですって」
レオは苦笑いを浮かべる。
「看病は慣れてるほうがいいかなって。
殿下、不器用そうですし」
ぴくり。
ディランのこめかみが、わずかに動いた。
ディランに不器用というのはレオぐらいだろうな。
「……不器用だと?」
「ほら、距離感とか。近すぎたり遠すぎたりしそうで」
「余計な心配だ」
ディランはレオの持つ器に手を伸ばす。
「彼女は私の婚約者だ」
「それって契約上でしょ?」
レオは器をひょいと引いた。
「婚約者って言葉で独占しないでくださいよ」
「独占ではない。保護だ」
「言い方がもう独占なんですよ!」
2人の間で、スプーンが宙に浮く。
「私が食べさせる」
「俺です!」
「殿下は威圧感がある」
「レオは軽すぎる」
「軽くて結構!」
視線がばちばちと火花を散らす。
「……」
私は開きかけた口をそっと閉じた。
「殿下、力入れすぎです」
「レオは近づきすぎだ」
「お嬢さんが緊張するでしょ!」
「私のほうが安心するはずだ」
「聞きました!? 本人に聞きました!?」
2人同時に、私を見る。
「ティアナ、どちらが――」
「お嬢さん、どっちが――」
さすがに限界だ。
「……ふたりとも」
静かな声。
だが、ぴたりと空気が止まる。
「出てってください」
「……え」
「今すぐです」
感情を抑え淡々と告げる。
レオが最初に我に返る。
「す、すみません……」
「申し訳ない」
ディランも深く頭を下げた。
「少し、うるさかったですね」
「……少しじゃない」
私は布団をぎゅっと握る。
「食べるどころじゃない」
2人は顔を見合わせ、同時に視線を逸らした。
「……廊下で反省してきます」
「私もだ」
そろって扉へ向かう背中に、私は小さく付け加える。
「戻ってくるときは……静かにしてください」
「はい……」
「心得た……」
扉が閉まる。
ようやく訪れた静寂の中、
りんごゼリーだけが、テーブルの上で静かに揺れていた。
「お嬢さーん、おはよう!
調子はどう??」
そう言いながら、レオは両手に抱えた籠を持ち上げる。
「りんごゼリーも作ってきたんだ!」
「……あれ、殿下もいる」
少しだけ目を丸くしたあと、すぐにいつもの笑顔に戻る。
にこにこと人懐っこい笑顔のまま、レオは部屋の中へ入ってきた。
テーブルに籠を置くと、透明な器に入った淡い琥珀色のゼリーが、朝の光を受けてきらりと揺れる。
「喉ごしがいいように、少し柔らかめにしてあるんだ。
お嬢さん、食べられそう?」
「……うん」
私がそう答えると、レオは嬉しそうに頷いた。
レオは器を手に取ると、にこっと笑って私のそばに腰を下ろした。
「じゃ、俺が食べさせますね。
ほら、りんごゼリー。冷たすぎないから」
「ありがとう……」
スプーンが口元へ近づいた、その瞬間。
「待て」
低い声が割り込む。
レオの手がぴたりと止まった。
「……殿下?」
ディランは一歩前に出て、静かに言う。
「私がやろう」
「え? いいですよ!?殿下ずっと付き添ってて疲れちゃったでしょ!」
「疲れてないよ」
「いや、いいですって」
レオは苦笑いを浮かべる。
「看病は慣れてるほうがいいかなって。
殿下、不器用そうですし」
ぴくり。
ディランのこめかみが、わずかに動いた。
ディランに不器用というのはレオぐらいだろうな。
「……不器用だと?」
「ほら、距離感とか。近すぎたり遠すぎたりしそうで」
「余計な心配だ」
ディランはレオの持つ器に手を伸ばす。
「彼女は私の婚約者だ」
「それって契約上でしょ?」
レオは器をひょいと引いた。
「婚約者って言葉で独占しないでくださいよ」
「独占ではない。保護だ」
「言い方がもう独占なんですよ!」
2人の間で、スプーンが宙に浮く。
「私が食べさせる」
「俺です!」
「殿下は威圧感がある」
「レオは軽すぎる」
「軽くて結構!」
視線がばちばちと火花を散らす。
「……」
私は開きかけた口をそっと閉じた。
「殿下、力入れすぎです」
「レオは近づきすぎだ」
「お嬢さんが緊張するでしょ!」
「私のほうが安心するはずだ」
「聞きました!? 本人に聞きました!?」
2人同時に、私を見る。
「ティアナ、どちらが――」
「お嬢さん、どっちが――」
さすがに限界だ。
「……ふたりとも」
静かな声。
だが、ぴたりと空気が止まる。
「出てってください」
「……え」
「今すぐです」
感情を抑え淡々と告げる。
レオが最初に我に返る。
「す、すみません……」
「申し訳ない」
ディランも深く頭を下げた。
「少し、うるさかったですね」
「……少しじゃない」
私は布団をぎゅっと握る。
「食べるどころじゃない」
2人は顔を見合わせ、同時に視線を逸らした。
「……廊下で反省してきます」
「私もだ」
そろって扉へ向かう背中に、私は小さく付け加える。
「戻ってくるときは……静かにしてください」
「はい……」
「心得た……」
扉が閉まる。
ようやく訪れた静寂の中、
りんごゼリーだけが、テーブルの上で静かに揺れていた。