夜明けが世界を染めるころ
扉が、ゆっくりと開いた。

一歩、踏み出した瞬間――
空気が変わったのが、はっきりと分かった。

ざわめきが止まり、無数の視線がこちらへ向けられる。
好奇心、探るような目、値踏みする視線。
そして、期待と緊張。

(……すごい)

思っていた以上だった。

殿下の腕に、そっと手を添える。
その動きひとつで、視線の熱がさらに増すのを感じた。

(逃げ道は、もうない)

けれど、不思議と足取りは揺れなかった。

歩くたび、ドレスの裾が静かに揺れる。
照明を受けて、アレキサンドライトが別の色を帯びる。

――誰かが、息を呑む音がした。

(見られている)

けれど同時に、私は気づく。

(……見られているだけだ)

肩書きも、噂も、憶測も。
ここではすべてが剥がされ、残るのは“今”だけ。

ディランは、堂々としていた。
さすがだな。
けれど、わずかに指先に力が入る。

(……大丈夫)

私は、そっとその手に応える。

するとディランは、ほんの少しだけ表情を緩めた。

会場の端で、見知った顔が目に入る。

レオが硬直したまま立ち尽くし、
ルイは得意げに微笑む。
アレンとロベルトは、同時に視線を逸らした。

テオは、満足そうに口角を上げ、
セナは一度だけ、静かに頷く。

ユウリは胸に手を当て、安堵したように息をついた。
少し後方、全体を見渡す位置で、レイさんが立っている。

そしてお父様…
何も語らず、ただ状況を見極める目。
その視線は確かにこちらに向けられていた。

(……見守ってくれている)

そう思えた。

壇上へと続く道を歩きながら、私は息を整える。

(これは、試されている場じゃない)

(選んだ結果を、示す場所だ)

殿下が、一歩前に出る。

会場の空気が、ぴんと張り詰めた。
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