夜明けが世界を染めるころ
一通り、みんなと過ごし。
気づけば部屋には、眠るセナと私だけが残っていた。

しんと静まり返った空間に、控えめなノックの音が響く。

「入るよ」

扉を開けて入ってきたのは、ディランだった。

「やあ」

短くそう言って、私の隣に腰を下ろす。
それきり、しばらく沈黙が流れた。

――この空気に、耐えきれなくなって。
私は思わず口を開いた。

「あ、あの……色々、ありがとうございます」

「何がだい?」

「この隠れ家のこととか……お医者さんのこととか。全部です」

「それは気にしないでくれ」
穏やかに言って、続ける。

「本当なら、君にももう少し休んでいてもらいたいところだが……」
ちらりとこちらを見て、
「そう言っても、君は聞かないだろ?」

ニヤリ、とした笑み。
私は苦笑しながら、黙って頷いた。

「このソファね」
ディランは軽く背もたれを叩く。
「座り心地がいいだけじゃなくて、寝心地もいいんだ。
このクッションとブランケットも抜群でね」

そして、優しい声で言う。

「だから、ここで君も休めばいい」

その言葉に、胸の奥がぎゅっと締めつけられた。

「……ありがとうございます」

「君の“共鳴”が、セナを救ったんだ」

静かで、はっきりとした声。

「本当はね、こんなに無茶をして……と言いたいところだが」
少しだけ間を置いて、
「よくやった。本当に」

そう言って、ディランは私の頭を優しく撫でる。

涙が出そうになって、必死にこらえた。
視線を落とし、下を向く。

「……は、はい」

その一言に、今の気持ちのすべてを込めて。

「……きっと、セナももうじき目を覚ますさ」

ディランは眠るセナに目を向けて、穏やかに言った。

「彼は良い騎士だ。それに、強い」

その言葉は、励ましというより確信に近かった。
胸の奥に、静かに温かいものが広がる。

ディランは立ち上がり、音を立てないように一歩引く。

「無理はするなよ、ティアナ。いまは守られる番だ」

そう言って、扉の前で一度だけ振り返り、
優しく微笑んだ。

そして、静かに席を外す。

扉が閉まる小さな音がして、
部屋には再び、私とセナだけが残った。

私はそっと、眠る彼の顔を見つめる。

「……みんな待ってるよ」

小さく呟いて、セナのそばに腰を下ろした。

彼の目が開く、その時を信じて。

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