夜明けが世界を染めるころ
そばにいたユウリも警戒する。




私は腰に差した剣に、そっと手をかけた。

「……ルイ、少し音が出るかもしれない」

「え?」

返事を待たず、私は静かに短剣抜く。
短剣だった刃は私の魔力に反応し、長さを変えた。刃は鏡のように澄み切っていて、光を受けると淡く青白く輝いた。

「それ……武器?」

「魔宝剣ではあるけれど今しょうとしてるのは…浄化。
人を斬るためのものじゃない」

エマが一歩後ずさる。
宝石がそれに反応するように、不気味に脈動した。

「近づかないで……!」

声は震えているのに、拒絶の意思だけが異様に強い。



「エマ!宝石を渡して」

エマの瞳が揺れる。抵抗している?


「た、たすけて」

本当のエマは手放したいと望んでいる。
片方の手で宝石を手渡そうとする手と、それを拒もうとする手。矛盾した動きをしている。

「うん、助けるよ」

安心させるように笑う。



「蒼き風よ、導け ラピスラズリ」

詠唱し、剣を一振りする。風の魔力を使ってエマから宝石を引き離す。離れたの確認する。

「ルイ エマを抑えて」

「わかったわ」

ルイが慌ててエマを抑える。
私は剣先を床に向け、静かに言葉を紡ぐ。

「この身に宿る“聖なる力”よ―力を解け ラピスラズリ」

剣が、低く澄んだ音を立てた。

次の瞬間、刃から柔らかな光が広がり、エマと宝石を包み込む。
斬撃はない。ただ、切り離すための光。

「っ……!」

エマが胸元を押さえ、膝をつく。

宝石から、黒い靄のようなものが引き剥がされるように浮かび上がり、剣先に吸い寄せられていく。

「ギギギ…!」

それはもはや人の声ではなかった。

「終わりだよ」

私は一歩踏み込み、剣先を宝石に軽く触れさせた。

――カン、と澄んだ音。

宝石は真っ二つに割れたが、砕け散ることはなく、
中から溜まっていた禍々しさだけが霧のように消えていった。

光が収まる。

エマは力を失ったように倒れ、私はすぐに近寄る。

「……ティアナ様…?」

か細い声で私を呼ぶ。

「大丈夫。もう、何も憑いてない」

そう言うと安心したように目を閉じる。
その胸元に残っているのは、ただの割れた石。
力も、意思も、完全に失われていた。

遅れて駆け寄ってきたルイが、息を呑む。

「剣で……浄化したの?」

「うん。
上手くいったようで良かった」

私は剣を納めながら、静かに続ける。

「エマは?」

「大丈夫、眠っているだけみたい」

「良かった、本当にありがとう」

ルイもホッとした顔をする。

「こんな危険な宝石をばらまいてる人間がいる。許されるはずがない。」

床に落ちた割れた宝石を見つめ、私は確信した。

――これは偶然じゃない。
誰かが、意図的にやっている。
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