夜明けが世界を染めるころ
そして私はナタリーさんのお墓にやってきた。

「ちゃんとできましたよ。
助けてくださってありがとうございました。
どうか安らかに」

そう祈りを捧げた。


そして
父から教えられた。

母――アイリスの眠る場所にもやってきた。

その隣には、
トワの墓が並んでいた。

すべてが終わった今、
私は報告に来たのだ。

長い戦いのことも。
失ったものも。
守りきれたものも。

丘を渡る風が、やさしく頬を撫でる。

まるで、ここに眠る誰かが
そっと迎えてくれているようだった。

「……お母様」

小さく息を吸い、言葉を紡ぐ。

「あなたが守ろうとしたもの――
 私も、守れたでしょうか」

答えは返らない。

けれど風が、花を揺らした。

私はアイリスの花を一輪、
母の墓前へそっと手向ける。

祈りを終え、
最後に、小さな墓の前へ膝をついた。

「……トワ」

胸が、わずかに痛む。

「あなたのしたことを、
 許せるかと言われたら…許せそうにもないや」

それでも。

「でも、あなたと過ごした2年間は、
 間違いなく本物だったよ」

指先で、墓石の縁をなぞる。

「無力な姉で……ごめんね」

風が強く吹き抜けた。

墓標の間を通り、
花弁を空へと舞い上げる。

それは、涙を攫うように。

「お嬢様…そろそろ」

ユウリの声が一歩後ろで聞こえる。

「ええ、もう大丈夫」

あるいは――
“もう行きなさい”と背を押すように。


私は立ち上がり、静かに頭を下げた。

「……行ってきます」

もう振り返らなかった。

背後で、
アイリスの花が、やさしく揺れていた。
< 491 / 508 >

この作品をシェア

pagetop