夜明けが世界を染めるころ
――ふと、視線を感じた。

なんとなく嫌な予感がして、そちらを見る。

会場の向こう。
人垣の間に立つディランが、こちらを見ていた。

……笑っている。

けれど、その笑みは――
怖いくらいに、整いすぎていた。

「……見られていたようですね」

隣で、セナが淡々と呟く。

「なにか言ってない?」

視線を戻すと、ディランの唇が、ゆっくりと動いた。

――口パク?

「……は。な。れ。ろ?」

「俺に向けて、ですね」

セナは相変わらず平然としている。

「……私は、少し外の空気でも吸ってくることにするよ」

再び目を向けると、
ディランの笑顔は、さらに深くなっていた。

――怖い。

私はしれっと背中を向け、
できるだけ自然を装いながら、足早にその場を離れる。

そして逃げ込むように、テラスへと向かった。

夜風が、やけに冷たかった。
< 498 / 508 >

この作品をシェア

pagetop