夜明けが世界を染めるころ
ティアナside
テラスに出ると、夜風が頬を撫でた。
火照っていた身体が、少しずつ冷えていく。
……に、逃げてしまった。
分かっている。
殿下が怖かったわけじゃない。
怒っていたわけでも、嫌になったわけでもない。
ただ――
あの視線に、あの笑顔に、
心の奥を見透かされそうで。
向き合えば、答えを出さなければならなくなる。
王妃という立場も。
殿下の隣に立つ未来も。
その重さから、目を逸らした。
夜空を見上げると、星が滲む。
わかってる。
逃げたままじゃ、何も変わらない。
それでも今は、
この冷たい風に当たっていないと――
胸の奥が、壊れてしまいそうだった。
「やっと、捕まえた」
背後から聞こえた声に、肩が小さく跳ねた。
振り向くより早く、
少し焦ったような、けれど安堵したような表情が近づいてくる。
思わず、一歩後ずさった。
「……殿下」
「逃げ足が早いな」
冗談めかした口調なのに、声はわずかに掠れている。
夜風に揺れる外套の向こう、
彼の瞳は、もう笑っていなかった。
「追いかけてこないと思った?」
「……思って、ません」
「嘘だ」
そう言って、距離を詰められる。
テラスの手すりに背が触れ、行き場を失った。
「ティアナ」
名前を呼ばれただけなのに、胸が痛む。
「逃げるな、と言うつもりはない。
君が怖くなった理由も……なんとなく分かる」
一瞬、言葉を探すように視線を伏せてから、
「でも、置いていかれるほうの気持ちも……少しは考えてほしい」
伸ばされた手が、そっと私の手を掴んだ。
強くはない。
拒めば、すぐ離れてしまいそうなほどの力。
「君が目を覚まさなかったあの時間、
俺は……怖かった。このまま目覚めないのではないのかって」
夜風の中で、低い声が震える。
「だから今度は、逃がしたくなかった」
掴まれた袖越しに、彼の体温が伝わる。
胸の奥が、ぎゅっと締めつけられた。
「……ずるいです」
「知ってる」
苦笑するように、そう答えた。
「それでも、君に嫌われるよりはましだ」
逃げ場のない距離で、
ディランがそっと私の手を握る。
夜空の星明かりが、2人の影を重ねていた。
テラスに出ると、夜風が頬を撫でた。
火照っていた身体が、少しずつ冷えていく。
……に、逃げてしまった。
分かっている。
殿下が怖かったわけじゃない。
怒っていたわけでも、嫌になったわけでもない。
ただ――
あの視線に、あの笑顔に、
心の奥を見透かされそうで。
向き合えば、答えを出さなければならなくなる。
王妃という立場も。
殿下の隣に立つ未来も。
その重さから、目を逸らした。
夜空を見上げると、星が滲む。
わかってる。
逃げたままじゃ、何も変わらない。
それでも今は、
この冷たい風に当たっていないと――
胸の奥が、壊れてしまいそうだった。
「やっと、捕まえた」
背後から聞こえた声に、肩が小さく跳ねた。
振り向くより早く、
少し焦ったような、けれど安堵したような表情が近づいてくる。
思わず、一歩後ずさった。
「……殿下」
「逃げ足が早いな」
冗談めかした口調なのに、声はわずかに掠れている。
夜風に揺れる外套の向こう、
彼の瞳は、もう笑っていなかった。
「追いかけてこないと思った?」
「……思って、ません」
「嘘だ」
そう言って、距離を詰められる。
テラスの手すりに背が触れ、行き場を失った。
「ティアナ」
名前を呼ばれただけなのに、胸が痛む。
「逃げるな、と言うつもりはない。
君が怖くなった理由も……なんとなく分かる」
一瞬、言葉を探すように視線を伏せてから、
「でも、置いていかれるほうの気持ちも……少しは考えてほしい」
伸ばされた手が、そっと私の手を掴んだ。
強くはない。
拒めば、すぐ離れてしまいそうなほどの力。
「君が目を覚まさなかったあの時間、
俺は……怖かった。このまま目覚めないのではないのかって」
夜風の中で、低い声が震える。
「だから今度は、逃がしたくなかった」
掴まれた袖越しに、彼の体温が伝わる。
胸の奥が、ぎゅっと締めつけられた。
「……ずるいです」
「知ってる」
苦笑するように、そう答えた。
「それでも、君に嫌われるよりはましだ」
逃げ場のない距離で、
ディランがそっと私の手を握る。
夜空の星明かりが、2人の影を重ねていた。