夜明けが世界を染めるころ
「やあ、セナ」
「殿下」
「なんだい、さっきのは」
「……別に」
「別に、で済む話じゃないだろう。
君は身を引くと言ったはずだ」
「そんなことを言ったかもしれませんね」
「ティアナは?」
「逃げました」
「……なぜだ」
「さあ。殿下が怖かったからじゃないですか」
「……」
「殿下」
セナは一度だけ視線を伏せ、静かに続けた。
「あの人は、追い詰められると逃げます。
嫌だから逃げたんじゃありません」
一拍、間を置く。
「殿下を失うのが、怖くなっただけです」
ディランの指先が、わずかに強く握られた。
「……それでも、俺は」
「なら、追ってください」
遮るように、セナは言った。
「背を向けたままでも、心まで離れたわけじゃない。
今あの人が欲しいのは、答えじゃなく――」
視線が、テラスの方へ向く。
「“迎えに来てくれる人”です」
ディランは何も言わなかった。
ただ一度、深く息を吐き、踵を返す。
完璧に整えられた王子の微笑は、もうそこになかった。
代わりにあるのは、
ひとりの男としての、焦りと覚悟だけ。
「……礼を言う、セナ」
「どういたしまして」
背後でそう答える声を聞きながら、
ディランは迷わずテラスへと向かった。
――今度こそ、逃がさないために。
「殿下」
「なんだい、さっきのは」
「……別に」
「別に、で済む話じゃないだろう。
君は身を引くと言ったはずだ」
「そんなことを言ったかもしれませんね」
「ティアナは?」
「逃げました」
「……なぜだ」
「さあ。殿下が怖かったからじゃないですか」
「……」
「殿下」
セナは一度だけ視線を伏せ、静かに続けた。
「あの人は、追い詰められると逃げます。
嫌だから逃げたんじゃありません」
一拍、間を置く。
「殿下を失うのが、怖くなっただけです」
ディランの指先が、わずかに強く握られた。
「……それでも、俺は」
「なら、追ってください」
遮るように、セナは言った。
「背を向けたままでも、心まで離れたわけじゃない。
今あの人が欲しいのは、答えじゃなく――」
視線が、テラスの方へ向く。
「“迎えに来てくれる人”です」
ディランは何も言わなかった。
ただ一度、深く息を吐き、踵を返す。
完璧に整えられた王子の微笑は、もうそこになかった。
代わりにあるのは、
ひとりの男としての、焦りと覚悟だけ。
「……礼を言う、セナ」
「どういたしまして」
背後でそう答える声を聞きながら、
ディランは迷わずテラスへと向かった。
――今度こそ、逃がさないために。