夜明けが世界を染めるころ
(……大変そう)

華やかな笑顔の裏で、内心どう思っているのかは分からない。
けれど、あれだけの視線と期待を一身に浴び続けるのは、さすがに気疲れしそうだ。


「さすが殿下ですね、相変わらずお美しいですが、私は断然ティアナ様派です!」

ユリアが力強く告げる。

「いや、張り合ってないからね」

「ティアナ様 私も少し挨拶周りして来ます。お父様が呼んでいるようなので…」

ぺこっと会釈するユリアに微笑む。

「ええ、またゆっくり。」
ユリアのお父様にも会釈する。



一人になった私はテーブルに並ぶ料理へと意識を向け、軽く皿を取った。

「これ、美味しそう……」

見た目は繊細で、味も上品。
思わず一口、また一口と手が伸びる。

「……ん?」

ふと、背中に視線を感じた気がして、顔を上げる。

令嬢たちに囲まれていたはずの殿下が、
ほんの一瞬だけ、こちらを見ていた――ような気がした。

(気のせい、よね)

視線を逸らした次の瞬間には、また別の令嬢に話しかけられている。
私は小さく首を振り、再び食事に戻った。

(今日は極力、関わらない。それが一番)


会場の隅で食事をしていると、ひとりの子息に声をかけられた。

「こんばんは、ティアナ嬢」

――確か、この人はカイロス。
たまにマルクとつるんでいる、少し品のない人物だ。

「こんばんは。どなたでしたかしら」

興味がないのを隠す気もなく、さらりと名前をぼかす。

「カイロスです。マルク様のご友人ですよ。
ティアナ嬢のことはお屋敷でお見かけすることがあり、美しい方だと思っておりました」

「それはどうも」

「ティアナ嬢も、そろそろ良いお年頃ですよね。
婚約者などはいらっしゃらないのですか?」

――早く切り上げたいのに、ずるずると話しかけてくる。

「ええ。今は考えておりませんの」

なぜ、あなたに心配されなければならないのか。
内心では苛立ちながら、表情だけは笑顔を保つ。

「そうですか。しかし、早めに決めないといけませんよ。
若いうちが花、と申しますからね」

……本当に、余計なお世話だ。
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