夜明けが世界を染めるころ
翌日、私たちは孤児院を訪れた。

石畳の道を抜け、古い門をくぐると、
年季の入った石造りの建物が姿を現す。

壁にはところどころ補修の跡が残っているものの、
崩れた印象はなく、長い時間ここで人を守ってきたのだとわかる佇まいだった。

その隣を、トワが小さな歩幅で並んで歩いている
後ろからセナがついてくる。

「トワ、手伝ってくれてありがとうね」

そう声をかけると、彼は少し照れたように胸を張った。

「いえ!
お姉様のお役に立てるなら、頑張ります!」

にこっと、屈託のない笑顔。

同じ年頃の子どもがいた方が、
きっと子供たちも話しかけやすいだろう。

トワが自分から「一緒に行きたい」と言ってくれたのは、
本当に助けになった。

中庭に足を踏み入れると、
小さな花壇に色とりどりの花が咲いていた。

種類はばらばらで、植え方も少し不揃い。
それでも、一本一本が大切に育てられているのが伝わってくる。

「……きれい」

トワが思わず呟く。

「子どもたちが植えたのかしらね」

「はい。
ちゃんと水のあげ方も考えてます」

そう言って、花の根元に目を落とす。

「踏まれないように、石も置いてある」

その観察力に、私は思わず微笑んだ。

「いらっしゃいませ。今日はありがとうございます」
出迎えてくれたのは孤児院の院長先生だった。

「こちらこそ、突然お邪魔してすみません。今日は設備の確認と、打ち合わせをさせていただければと思ってまいりました」

そう挨拶をすると、院内へ案内してくれる。

キッチンは広くはないが、炊き出しを行うには十分なスペースがある。
かまどや調理台、鍋の大きさなどを一つひとつ確認していく。

「鍋は少し足りないですね」
セナが静かに言う。

「大きめのものは持ってくれば大丈夫そうね」

そう話していると、扉の方から控えめな声がした。

「……あの」

振り返ると、小麦粉を買い取ったパン屋の奥さんの旦那さんが立っていた。
少し緊張した面持ちだが、どこか決意を感じさせる表情だ。

「今日は、パン作りのことでお力になれればと思って来ました」
そう言って深く頭を下げる。

「ありがとうございます。無理のない範囲で構いません」
私はそう答えた。

「いえ……妻の件で、迷惑をかけた分もありますから。私が不甲斐ないばかりに…。それに小麦粉の買取までありがとうございます。正直困っていたので助かりました。
精一杯頑張りますのでよろしくお願いします。」

深々と頭を下げる。


「専門家の方がいてくれて私も助かります。
よろしくお願いします」

そういうと少し表情が柔らいだ。


やがて、レオも合流し、キッチンには子どもたちが集まってきた。
年齢はばらばらで、興味津々にこちらを見上げている。

「今日はね、みんなにパン作りを手伝ってもらいたいの」
そう声をかけると、子どもたちの表情がぱっと明るくなる。

「ほんと!?」
「こねるのやりたい!」
「丸いの作っていい?」

「もちろん。危ない作業は大人がやるから、安心して楽しくやろう!」
レオが優しく補足する。

テーブルの上に紙を広げ、パン作りとシチュー作りの工程を簡単に説明する。

「パンは、小麦粉をこねて、発酵させて、形を作るところまでをみんなでやるよ。
シチューは野菜を洗ったり、皮をむいたりを手伝ってもらえると助かる!
グループにわけてやるからみんなよろしくね」

子どもたちは真剣な顔で話を聞き、何度も頷いている。

「楽しそうだな」
レオが子どもたちの様子をみながら言う。

パン屋の旦那さんも静かに微笑んだ。

「……いいボランティアになりますね」

セナのその言葉に、私は心の中でそっと頷いた。
これならきっと、大丈夫。

このボランティアは、ただ食事を配るだけじゃない。
人と人をつなぐ、大切な時間になる――そのために円滑に進めなければ。
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