夜明けが世界を染めるころ
孤児院でのボランティアが落ちつき窓から夕焼けが差す。静かすぎるほど穏やかだった。ちらほらと片付けが始める。
そういえばセナどこ行ったのかな…
私は、パンを頬張る子どもたちの様子を横目で見る。
「トワ」
そう声をかけるとるとこちらに駆け寄ってきた。
「お姉様」
「これもみんなで食べて。余ったクッキーだよ」
「ありがとうございます」
穏やかに笑う。
「今日はありがとう。
トワのおかげで良いボランティアになったよ」
一瞬キョトンとしたトワがすぐ微笑みを作る。
「それはお姉様のおかげでしょ?」
「え?」
返ってくると思った回答と違うので少し驚く。
「整理券を配布したのは正解ですね。」
「どうして、そう思うの?」
問いかけると、トワは一瞬だけ考える素振りを見せたあと、淡々と答えた。
「午前と午後で人の流れが分散しましたし、
待ち時間が読めるから不満が出にくいです。
それに――」
そこで、言葉がぴたりと止まる。
「それに?」
促すと、トワは小さく肩をすくめた。
「……感情が荒れにくいです」
その言葉に、胸の奥がざわついた。
「感情、って?」
「並ぶ時間が長いと、不安や苛立ちが溜まります。
空腹だと、なおさら。
でも整理券があれば、“待てばもらえる”ってわかるから」
まるで、人の心理を一段上から眺めているような言い方だった。
「トワ……よくわかるのね」
そう返すと、トワは小さく首を傾げる。
「いつも、こういうのを見てしまうんです。
どうして上手くいくのか、とか。
どうして失敗するのか、とか」
その言い方は、まるで――
“経験したことがある”人間の口ぶりだった。
「でも」
トワは、ぎゅっと自分の服の裾を握る。
「ここでは、失敗しても怒られないから」
その言葉に、胸がちくりと痛んだ。
「失敗は悪いことじゃないわ。
むしろ、次に繋がる大事なことよ」
そう言うと、トワはじっと私を見つめた。
――じっと、探るように。
「……お姉様はそう言い切れるんですね」
「ええ」
「壊してしまっても?」
一瞬、空気が止まる。
その一瞬、トワの表情がほんのわずかに変わった気がした。
幼さが引き、別の“何か”が覗いたような。
「……壊して?」
聞き返した私に、トワははっとしたように目を見開いた。
「あ……ごめんなさい。
今の、変でしたよね」
慌てて取り繕うように、いつもの少年の表情に戻る。
「ううん。大丈夫」
そう答えながらも、私は心の中で引っかかっていた。
――壊す、という言葉。
――そして、その言い方。