夜明けが世界を染めるころ
優雅に笑みを浮かべ、口を開く。
「ラピスラズリ当主に直々に頼まれた仕事ですので、期待に応えられるよう懸命にこなすのは当然です。それを媚を売ると言うのであれば、そうかもしれませんね。
あ、直々に任されたことがないから、兄上にはわかりませんよね。失礼しました。
それでは急いでおりますので」
そう言うと、横をさっと素通りする。振り返れば、真っ赤な顔で怒るマルクの姿が見える。良い気味だ。
一連のやり取りを見ていたユウリは、ふふふと小さく笑った。
「さすがです、お嬢様。良い気味です。あれが次期当主では、アドルフ様も頭が痛いでしょうね」
確かにその通りだ。次期当主としての勉強も疎かにし、遊び惚けているマルクに頭を抱えているのは事実。
そして、そんな息子を溺愛している母。
この家の将来が不安であるのは、間違いない。
だからこそ、私は自分のすべきことを、確実にこなさなければならないのだ。
やっと玄関まで辿り着いた。どっと疲れが出る。
はぁ、とため息をつきつつ、馬車の横に立つ人物に目を向ける。
銀色の髪に、切れ長の水色の瞳。
筋の通った鼻筋に、無駄のない整った輪郭。
長くすらりと伸びた手足は、濃紺色の騎士団の制服に包まれ、
服の上からでも鍛え上げられた筋肉の逞しさがはっきりと伝わってくる。
その男――セナは、静かに立っていた。
背筋は真っ直ぐ。
だが威圧するような気配はなく、
ただ研ぎ澄まされた刃のような静けさだけを纏っている。
「お待たせ、セナ。急だったのにごめんね。今日はよろしくね」
「いえ、お気になさらず。よろしくお願い致します」
馬車の運転席にいる小太りの男性にも声をかける。
「トムおじさんもよろしくね」
「こちらこそ、お嬢様を大事に運ばせてもらいますよ。こいつらも喜んでおる」
馬車の脇で、立派な毛並みの馬たちに目を向ける。
「リトル、ラン。よろしくね。あ、リトルもランも毛並みツヤツヤだね。トムおじさんが綺麗にしてくれたのかな」
馬たちの毛並みを撫でながら声をかけると、トムおじさんが誇らしげに笑う。
「お嬢様がくれた馬用のオイル、あれを使ってみたんだが、良かったよ。ゴワゴワだった毛がこんなに綺麗になった」
先日の雨で泥まみれになった馬たちに、市街で見つけた良いオイルをプレゼントしていたのだ。
「ラピスラズリ当主に直々に頼まれた仕事ですので、期待に応えられるよう懸命にこなすのは当然です。それを媚を売ると言うのであれば、そうかもしれませんね。
あ、直々に任されたことがないから、兄上にはわかりませんよね。失礼しました。
それでは急いでおりますので」
そう言うと、横をさっと素通りする。振り返れば、真っ赤な顔で怒るマルクの姿が見える。良い気味だ。
一連のやり取りを見ていたユウリは、ふふふと小さく笑った。
「さすがです、お嬢様。良い気味です。あれが次期当主では、アドルフ様も頭が痛いでしょうね」
確かにその通りだ。次期当主としての勉強も疎かにし、遊び惚けているマルクに頭を抱えているのは事実。
そして、そんな息子を溺愛している母。
この家の将来が不安であるのは、間違いない。
だからこそ、私は自分のすべきことを、確実にこなさなければならないのだ。
やっと玄関まで辿り着いた。どっと疲れが出る。
はぁ、とため息をつきつつ、馬車の横に立つ人物に目を向ける。
銀色の髪に、切れ長の水色の瞳。
筋の通った鼻筋に、無駄のない整った輪郭。
長くすらりと伸びた手足は、濃紺色の騎士団の制服に包まれ、
服の上からでも鍛え上げられた筋肉の逞しさがはっきりと伝わってくる。
その男――セナは、静かに立っていた。
背筋は真っ直ぐ。
だが威圧するような気配はなく、
ただ研ぎ澄まされた刃のような静けさだけを纏っている。
「お待たせ、セナ。急だったのにごめんね。今日はよろしくね」
「いえ、お気になさらず。よろしくお願い致します」
馬車の運転席にいる小太りの男性にも声をかける。
「トムおじさんもよろしくね」
「こちらこそ、お嬢様を大事に運ばせてもらいますよ。こいつらも喜んでおる」
馬車の脇で、立派な毛並みの馬たちに目を向ける。
「リトル、ラン。よろしくね。あ、リトルもランも毛並みツヤツヤだね。トムおじさんが綺麗にしてくれたのかな」
馬たちの毛並みを撫でながら声をかけると、トムおじさんが誇らしげに笑う。
「お嬢様がくれた馬用のオイル、あれを使ってみたんだが、良かったよ。ゴワゴワだった毛がこんなに綺麗になった」
先日の雨で泥まみれになった馬たちに、市街で見つけた良いオイルをプレゼントしていたのだ。