余命2ヵ月のわたしを愛した死神
"7"と記された指定の駐車スペースに車が停まると、シートベルトを外し、車から降りる。
広い通りから住宅街に一本中に入ったところに建つそのマンションは、周りに建つどのマンションよりも目立っており、中庭のようなスペースを囲うようにして建ち並んでいた。
わたしは歩き出す雨城さんの後に続き、一番左端にある一棟のマンションの中へ入って行く。
雨城さんはエントランスにたくさん並ぶポストの中から、"A-702"と記されたポストを開けて郵便物を確認すると、ガラスドアの横にある差込口にカードキーを差し込んでオートロックを解錠した。
解錠されたガラスのドアは自動で横に開き、わたしたちはその中へと進んで行く。
オートロックがついたマンションに住んだことがないわたしは、何もかもが新鮮に感じ、ワクワクとドキドキを密かに抱きながら雨城さんの後について歩いて行った。
「立派なマンションですね。」
エレベーターに入ったタイミングでわたしがそう言うと、雨城さんは「一人で住むには、ちょっと広過ぎましたね。住めればどこでも良かったので、一番最初に内見に来たこのマンションにすぐ決めてしまったんですよ。」と言って苦笑いを浮かべながら、エレベーター内にある扉横の階数ボタンの中から"7"を押していた。
そしてエレベーター内に入り、雨城さんの横に立ってみて思ったのだが、雨城さんは背が高く、160センチあるわたしよりも20センチ近くは背丈が違うように見えた。
(7階かぁ。家賃結構するだろうなぁ······。"BLENDA"の人事課長って言ってたもん、そりゃそうか。)
そんな事を考えながら、ゆっくり上るエレベーターが7階に着くのを待っていると、エレベーターはあっという間に7階に到着し、雨城さんは7階フロアの奥の方へ進んで行き、奥から数えて2番目の扉を解錠し、ドアノブに手を掛けた。
「着きましたよ。どうぞ、入ってください。」
そう言って扉を開ける雨城さんは、玄関の照明を点ける。
わたしは「お邪魔します······」と言いながら、遠慮がちに玄関へと足を踏み入れた。
暖色のライトが照らすのは、広々とした玄関と真っ直ぐにリビングへと続く殺風景な廊下。
雨城さんは玄関の扉を閉めて鍵を掛けると、「何もないですけど、自宅だと思ってくつろいでくださいね。」と言って、茶色い革靴を脱ぎ揃えた。
それから普段使っているのであろうダークグレーのスリッパに足を通すと、玄関の壁寄りに置いてあるスリッパ立てから来客用らしいライトグレーのスリッパを手に取り、わたしが履きやすい向きで床に置く。
雨城さんのその動作のあまりのスマートさにわたしは、(こんなわたしがお邪魔して良かったのだろうか······)と、今更ながらに不安になってきてしまった。
無駄な動きがない雨城さんは、そのまま廊下の向こう側へと足を進めて行く。
わたしは賢司さんの電気ヒーターのおかげで乾いたパンプスから足を解放させると、雨城さんに用意して頂いたスリッパに足を通した。
その瞬間、スリッパの肌触りの良さと履き心地に締め付けられていた足が解されていくのが分かった。