余命2ヵ月のわたしを愛した死神

長めの廊下を歩き、その先にある開いたドアから中を覗き込むと、そこには広々としたリビングが広がっていた。

ホワイトフローリングによく映えるダークブラウンの家具に、肌触りが良さそうなグレーのラグ。
住宅街の夜景が広がる大きな窓辺には、大きな葉の観葉植物が置かれている。

センスを感じるそのインテリアや家具の配置に、インテリアコーディネーターの経験でもあるのではないかと疑ってしまう程だ。

わたしが物珍しそうにリビングを眺めていると、雨城さんは「どうしたんですか?」と言って、微かに笑う。
雨城さんの反応に自分の挙動が恥ずかしくなったわたしは、「いえ、お洒落なお部屋だなぁと思って。」と言い、微笑みを浮かべて誤魔化した。

「そうですか?気に入って頂けたなら良かった。何か飲みますか?珈琲でも淹れましょうか。」

そう言いながら、対面になっているキッチンに入って行く雨城さんは、キッチン内の棚に置かれたブラックの珈琲メーカーの電源を入れた。

「あ、そんな気になさらないでください。」
「珈琲はお嫌いですか?」
「いえ、好きですけど······」

わたしがそう答えると、雨城さんは「良かった。」と穏やかに微笑み、食器棚を開けてカップを取り出した。

「珈琲はブラックが良いですか?それともカフェラテの方がお好きですか?」
「じゃあ···、カフェラテでお願いします。」
「カフェラテですね、了解。」

遠慮するつもりが、結局お言葉に甘えてしまう形になってしまい、何だか申し訳なく感じてしまう。
わたしはリビングの中央の方まで足を進めると、住宅街とずっと先の方まで見える景色を眺めながら「夜景、綺麗ですね。」と呟くように言った。

「7階でも意外と向こうの方まで見えるんですよね。夏は、毎年ある琥珀川の花火大会も見えたりするんですよ。」

そう言いながら、雨城さんは珈琲の準備を進めていく。
わたしは「花火も見えるんですか?わざわざ行かなくても花火大会が見れるなんて最高ですね。」と言い、窓辺の方へと歩み寄って行った。

「まぁ、一緒に見る人が居るわけじゃないので、最高なのかどうかは分かりませんが、毎年大体、お隣のベランダから賢司さんと純一さんの仲睦まじい会話が聞こえてくるので、それが聞こえてくるのが微笑ましいくらいです。」

そう言って静かに笑う雨城さんだが、それに対してわたしはどう反応して良いのか迷ってしまった。

賢司さんは、雨城さんは女っ気が無いと言っていたけれど、本当なのだろうか。
こんなに素敵な人の隣がずっと恋人不在だなんて事があるのだろうか。
わたしは、その事実が何だか信じられなかった。

「さぁ、カフェラテ出来ましたよ。砂糖は使います?」

キッチン内からカップを少し持ち上げて見せながらそう言う雨城さんの言葉と共に、香ばしい珈琲の香りが漂ってくる。
わたしは「いえ、砂糖は大丈夫です。」と答えると窓辺から離れ、リビング中央に置かれたソファーの方へと足を進めた。
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