余命2ヵ月のわたしを愛した死神
それから、賢司さんが作ってくれた幾つもの料理をいただき、身も心も癒やし満たされたわたしは、賢司さんに見送られながら雨城さんと共に"SEVENS BAL"を後にした。
普段からあまりお酒を飲まないという雨城さんは車通勤らしく、残業が無い日は仕事を終えてから"SEVENS BAL"に立ち寄り、ピアノを弾いて、賢太さんが作る料理を食べてから帰宅するというのがルーティンなのだと話してくれた。
すっかり雨も止み、夕陽が沈んだ後のまだ雲がかかる夜空の下、"SEVENS BAL"の近隣にある有料駐車場に向かう雨城さんは、その中でよく目立っていた大きな黒い四駆の車に近付いて行く。
そして、スーツのポケットからリモコンキーを取り出すと、その車のヘッドライトが点滅した。
「どうぞ。」
雨城さんはそう言って、車の助手席のドアを開けると、わたしが乗りやすいように促してくれる。
特別車に興味があるわけでもなく、自動車免許すら持っていないわたしだが、雨城さんの車が高級車なのだという事だけは一目瞭然だった。
「···失礼します。」
そう言って、わたしは緊張気味に雨城さんの車に乗り込んだ。
助手席に座ると、甘過ぎない爽やかな香りがふんわりと香り、綺麗に整頓された車内は清潔感そのものだった。
助手席のドアを閉め、クルリと運転席側に回って来た雨城さんは、スマートに運転席へと乗り込む。
そして雨城さんがシートベルトを締めるのを見て、わたしも慌ててシートベルトを締めると、エンジンがかかり「それじゃあ、出発しますね。」と言う雨城さんの声と共に車は静かに発進された。
すると、振動もほとんどなく静かな車内にわたしのスマートフォンのバイブ音が鳴り響く。
実は、まだ"SEVENS BAL"に居た時からバッグの中でしつこく鳴り続けている事に気付いてはいたのだが、わたしはずっと無視し続けていたのだ。
「電話じゃないですか?出なくていいんですか?」
雨城さんはそう言って気にしてくれたのだが、わたしは「大丈夫です。すいません、うるさくて······」と言い、電話に出る事はしなかった。
電話の相手が弘太郎である事は、確認しなくとも分かっていたからだ。
ただ、このまま何度も鳴り続けるのは煩いと思い、わたしはスマートフォンの電源を落とす事にした。
その際にチラッとスマートフォンのディスプレイが見えたのだが、LINEと着信履歴の件数がとんでもない事になっていた。
それから10分もしないうちに、雨城さんの車はある駐車場へと入って行った。
見慣れない景色にわたしがキョロキョロしていると、雨城さんが「着きましたよ。」と落ち着いた口調で教えてくれる。
その駐車場の横には、背の高い灰色のマンションが所々に明かりを灯しながら聳え立っていた。