余命2ヵ月のわたしを愛した死神

雨城さんがわたしに寿命を託し、居なくなってしまったあの後、わたしのお腹に新しい命が存在する事に気付いた。

気付いたのは妊娠3ヵ月の時。
生理がこない事に違和感は感じつつも、雨城さんを失った悲しみからストレスがかかり、生理が止まっているだけだと思っていたのだが、念の為に受診した婦人科で妊娠が発覚したのだ。

それは紛れも無く、雨城さんがわたしに遺してくれた大切な新しい命だった。

有難い事に悪阻やマイナートラブルなどは全く無く、元気な妊婦生活を過ごす事が出来たわたしは、産休に入るギリギリまで仕事に励む事が出来、無事に出産を迎え、その時に生まれてきてくれたのが、4歳になる娘の美雨だ。

わたしは会社のすぐ目の前のバス停からバスに乗り、バス一本で自宅近隣のバス停で降りると、そこから徒歩で保育園へと向かった。

木材のフェンスで囲われ、園庭には子どもたちの喜びそうな遊具が揃っている"コスモ保育園"は、周りは緑が豊かで子どたちがのびのびと過ごせる保育園だ。

保育園の入口から入ると、玄関で待機していた保育士さんが「あ、美雨ちゃんママ!おかえりなさい!」と笑顔で迎えてくれた。

「今、美雨ちゃん、1歳児クラスに居ますよ。今日も小さい子たちの遊び相手をしててくれてます!」
「そうなんですね。お姉さんぶりたいのかなぁ。」

わたしがそう言って笑うと、保育士さんは「お世話が好きなのかもしれないですね!美雨ちゃん優しいので、小さい子たちに人気があるんですよ!」と話してくれた。

わたしは一階にある1歳児クラスに向かうと、開いた扉の前に置いてあるベビーゲートの手前で娘の姿を見つけ、「美雨。」と呼び掛けた。

わたしの声に気付いた美雨は、まだヨチヨチ歩きの女の子の遊び相手をしてあげていたが、こちらを向くと、パッと笑顔を見せ「あ!ママァ!」と立ち上がり、こちらへ駆け寄って来た。

わたしに笑顔で駆け寄って来た美雨は、その勢いのままわたしの脚に抱きついてくる。
そしてわたしを見上げるその笑顔は、雨城さんにそっくりだった。

「さあ、帰るよ。」
「うん!」

それからわたしは、オレンジ色になり始めた空の下を美雨と手を繋ぎ歩き、徒歩5分先にある自宅マンションへと帰宅する。
わたしはマンションの前まで来ると、未だについ癖で駐車場を見てしまう。

しかし、駐車場の"7"番に停まっていた雨城さんの車は、あるはずもない。

エントランスに入ると、美雨がわたしにカードキーを催促して来る。
美雨は、差込口にカードキーを差し込みオートロックを解錠するのが好きなのだ。

わたしはバッグからカードキーを取り出すと、「優しく差し込むんだよ?」と言いながら美雨にカードキーを差し出す。
美雨は「うん!」と元気良く返事をすると、わたしからカードキーを受け取り、背伸びをしながら差込口にゆっくりとカードキーを差し込んだ。
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