余命2ヵ月のわたしを愛した死神

そしてオートロックが解錠され、開く自動ドアを見て、満足そうな表情を浮かべる美雨は、わたしにカードキーを返す。
その小さな手は、わたしの手を握り締め、エレベーターの方へと歩き出した。

エレベーターに乗ると、美雨は背伸びをして"7"のボタンを押す。
最近は、何度も大人のやる事を真似したいお年頃のようだ。

それから扉が閉じると、ゆっくりと上っていくエレベーター。
上に浮かぶ数字のランプを見ながら、美雨は"7"まで数えていた。

7階に着くと、エレベーターを降りて、美雨は702号室の扉の前まで駆けて行く。
そして再び、わたしにカードキーを催促した。

「はい、お願いします。」

わたしがそう言ってカードキーを差し出すと、美雨は嬉しそうにカードキーを受け取り、扉に付いている差込口にカードキーを差し込んだ。

カチャッと鍵が解錠された音がし、わたしはドアノブに手を掛ける。
それからいつものように扉を引いて開けた、その時だった···――――

「···えっ。」

家の中から、微かに音が聞こえてくる。
それは、ピアノの音だ。

その音に美雨も気付き、開いた扉の隙間から中を覗き込むと、不思議そうに「ママぁ、ピアノの音するよぉ?」と言った。

わたしは美雨と一緒に家の中に入る。
そこでわたしは、そのピアノの音···――――弾かれている曲が"最後の雨"である事に気付いた。

その瞬間にわたしは履いていたパンプスを脱ぎ捨て、急いで廊下を歩き、アップライトピアノが置いてある部屋のドアノブに手を掛けた。

そしてドアを開けると、そこにはピアノを弾く男性の姿があった。

揺れる黒髪に涼やかな整った横顔、それから歌うように奏でる"最後の雨"···――――

わたしは片手で口を押さえながら、想いと一緒に込み上げてくる涙を堪えた。

すると、ゆっくりと歩み寄って来て、わたしの傍で手を握り締める美雨は、部屋の中を覗く仕草をする。
部屋の中を覗き、美雨がはじめに言った一言は「綺麗な音だね!」だった。

そこで、ピアノを弾く男性の手が止まる。
男性はゆっくりとこちらに顔を向けると、わたしたちにその瞳で優しく微笑みかけてくれた。

「···雫さん。」

ずっと聞きたかった、ずっと呼ばれたかったその優しい低音がわたしの心まで響いてくる。
わたしはその声に微笑みながら涙を流し、「雨城さん······」と声を震わせた。

その様子を不思議そうに眺める美雨は、わたしを見上げると「ママぁ?」とわたしを呼んだ。
< 103 / 105 >

この作品をシェア

pagetop