余命2ヵ月のわたしを愛した死神
「どうぞ、お掛けになってください。」
ダークブラウンの3人掛けソファーに手を差し、わたしを促す雨城さんの言葉でわたしはソファーに腰を掛ける。
雨城さんはわたしがソファーに腰を掛け落ち着くのを確認すると、わたしにカフェラテが入った無地でアイボリーの珈琲カップを差し出した。
「ありがとうございます。」
そう言って、わたしは差し出された珈琲カップを両手で包み込むように受け取る。
そして、雨城さんは自分のブラック珈琲が入ったカップを手にしながら、わたしの隣に腰を下ろした。
「いただきます。」
わたしはそう言い、珈琲カップを口へと運んでカフェラテをそっと口を付ける。
まろやかなミルクの香りと珈琲豆の香りが口の中に広がり、それは家で飲めるカフェラテとは思えない程の美味しさだった。
「少し落ち着けましたか?」
「はい、お陰様で。雨城さんと賢司さんのお陰ですね。」
わたしがカフェラテにホッと一息つきながらそう言うと、雨城さんは「いえ、」と首を小さく振り「僕は何もしていませんよ。」と謙虚に言った。
「何から何までお世話になってしまって、本当に申し訳ないです。」
「お気になさらず。賢司さんも大切な"妹"さんのような雫さんを放っておけなかったんですよ。」
雨城さんはそう言ってブラック珈琲を一口飲むと、目の前のテーブルにカップを置いた。
「転職は、前から決めていたんですか?」
何気ない雨城さんの問いに、わたしは「いえ、そうでもなくて······」と言うと、何の説明もせずにいるのも失礼だと思い、今日会社で起きた出来事を雨城さんに話す事にした。
「実は、今までずっとあたためてきて、やっと通った企画があったんですけど、そのプロジェクトのリーダーにわたしが指名されたはずが、突然"無かった事にして欲しい"って言われて。」
わたしがそう話すと、雨城さんは「無かった事に?どうしてそんな突然?」と、不審そうな表情を浮かべた。
「わたしがプロジェクトリーダーになるのを反対した人が居たみたいで···、その人が誰なのかは、見当が付いてるんですけどね。」
「···普段から、雫さんに嫌がらせをしていた人が居た、という事ですね。」
わたしの言葉から何かを察し、そう言う雨城さんは、複雑な表情を浮かべると、テーブルに置いたカップに手を伸ばした。
「そしたら上司が、プロジェクトリーダーは違う人に変えると言い出したんです。しかも新しく指名した人の名前が、わたしの"見当が付いていた人"で。それが納得いかなくて、企画自体を無くしてくださいって申し出たんですけど、それも却下されて···、最終的には違う支店に異動って言われたので、辞める事にしたんです。」
「···なるほど。」
全てを悟るかのような雰囲気を漂わせる雨城さんは、表情には出さないが呆れているように見えた。
そして、雨城さんは「会社って、どうして加害者を庇うんでしょうね。」と言って、カップを口へと運んだ。