余命2ヵ月のわたしを愛した死神

「今まで、自分なりに頑張ってきたつもりだったんですけど···、努力は報われるだなんて、嘘だと思いました。それで帰れば、彼が知らない女を家に連れ込んでて···、わたしの人生って、何なんでしょうね。」

わたしはそう言って強がりの微笑みを浮かべると、珈琲カップを口に運び、冷めかけたカフェラテと一緒に悲しみを飲み込んだ。

「···それなら、努力は報われるんだって事をうちの会社に来て、見せ付けてやればいいですよ。雫さんを失った事を後悔させてやりましょう。」

強がるわたしが醸し出してしまった切なさを、雨城さんの優しい言葉が包み込み、わたしの心が泣き出しそうになるのを感じた。
しかし、わたしは痛む心をグッと抑え、堪えた涙を笑顔に変えて見せた。

(強くならなきゃ。泣いてなんていられない。)

そう思いながら、わたしは雨城さんに「そうなれるように、頑張ります。」と誓った。

「あ、ちなみに何ですけど、希望の部署とかありますか?企画の仕事をしていたなら、同じような事をしたいですか?それとも、違う業務をやってみたいとか。」

雨城さんはそう言って長い脚を組むと、その膝の上にカップを持つ手を置いた。

わたしは雨城さんの言葉に悩む事無く「やっぱり今までやっていたような仕事がしたいですけど···」と答えたが、この際我儘を言っていられるわけもなく、職にあり就けるだけで有難いと思い、「雇っていただけるなら、どんな仕事でもやります。」と強い口調で告げた。

すると、雨城さんはわたしの答えに優しく微笑み、「雫さんは、本当に仕事が好きなんですね。僕と同じだ。」と言った。

その言葉がわたしには途轍も無く嬉しい褒め言葉に聞こえ、返答に詰まる程に照れてしまう。

その時、ふとわたしの視線が雨城さんの手に止まった。

カップを持つ、男らしさの中にもしなやかさを感じる綺麗な長い指。
この手でピアノを弾いていたのだと思うと、わたしは先程の"最後の雨"を思い出した。

「···あっ、そういえば、さっき"SEVENS BAL"で弾いてたのって、"最後の雨"ですよね?」

照れる自分を誤魔化す為に話を逸らし、わたしがそう訊くと、雨城さんは「あの曲、知ってるんですか?」とハッと驚くような表情を浮かべた。

「はい、子どもの頃に父がよく聴いていた曲なので、知ってるんです。いい曲ですよね。」

わたしがそう言うと、雨城さんは喜びが溢れるような微笑みを浮かべ「僕が一番好きな曲なんですよ。雫さんが知ってるなんて嬉しいなぁ。」と言った。

「あっ、そうだ。雫さん、こっちに来てください。」

雨城さんはそう言ってほとんど珈琲を飲み終えたカップをテーブルに置くと、ソファーから立ち上がった。
それに続き、わたしも珈琲カップをテーブルに置くとソファーから立ち上がり、歩き出す雨城さんに続いて、リビングを出る。

雨城さんが向かったのはリビングから出て、廊下のすぐ左側にあったドアの前だった。
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