余命2ヵ月のわたしを愛した死神

その後、わたしはアップライトピアノが置いてある部屋の斜め向かいにあるバスルームへと案内してもらった。

洗面室には白い棚にチョコレート色の籠が収納されており、その籠の中には真っ白なタオルが並んでいた。
ホテルのようなお洒落な形状の洗面台に縦に楕円の鏡。
置いてある洗濯機はドラム式で、使った事のないわたしは雨城さんに使い方を教わり、自分で洗濯機を回す事にした。

さすが洗濯までを雨城さんにお願いする訳にはいかなかった。

それから着替えを貸してくれた雨城さんは、お風呂を沸かし、わたしに一番風呂を譲ってくれた。
わたしは「後でいいです!」と遠慮したのだが、「今日は雨に濡れてしまいましたから、風邪を引くといけないので、温まって来てください。」と、わたしを納得させるのが上手い雨城さんのペースに乗せられ、わたしが先に入らせて頂く事になってしまったのだ。

(なぜか、雨城さんの言う言葉には強く断れないんだよなぁ······)

そんな事を考えながら、浴室に入ると、浴室もまたお洒落で白を基調とされた内装になっていた。
真っ白に床にグレーの石柄の壁、それから広い浴槽。

わたしは人の家ではなく、高級ホテルにでも泊まりに来てしまったのではないかと錯覚してしまう程だ。

わたしが今まで住んできた家には付いていたことがない追い焚き機能もついており、"42度"に設定されていた。
柑橘系の香りが漂うライム色の湯船に足から入っていくと、身体の芯はまだ冷えていたのか、その温かさから全身に心地良い痺れが伝わった。
ゆっくりと足から肩まで湯船に浸かると、自然と零れるのは幸せな溜め息。

その入浴剤の香りと湯船の程良い温かさは、今日あった嫌な出来事も吹き飛ばしてくれるような気持ちにさせた。

(···気持ちいい。)

わたしは目を閉じると、身体の芯まで温まっていくその感覚に意識を集中させた。
しかし、目を閉じてみると思い出すのは、脳裏に焼き付いてしまっていた思い出したくもない光景ばかり。

どうしてこうなってしまったのか、何度考えてみても答えは出ない。
けれど、わたしは(これで良かったんだ。)と自分に言い聞かせる事しか出来なかった。

いくら努力をしても報われない環境から離れる事が出来た。
わたしを愛しているフリをして、騙していた弘太郎の本性に気付けた。

それは、今後のわたしの為になる。

わたしはそう言い聞かせる事で、自分を保つ事しか思い浮かばなかったのだ。

(それに、あの出来事があったからこそ、雨城さんの"最後の雨"に出会えた。)

わたしには、それが一番の自分へのご褒美に感じたのだった。
< 16 / 105 >

この作品をシェア

pagetop