余命2ヵ月のわたしを愛した死神
***


「うわぁ······、ここが···」

わたしの目の前には、見上げれば首が痛くなる程の高さがあるビル、"BLENDA"の本社が堂々と建ち構えていた。

わたしは今朝、スッキリとした状態で7時きっちりを目が覚めると、既に起きてリビングでブラック珈琲を飲みながら新聞に目を通していた雨城さんに朝の挨拶をした。

部屋着姿なのにも関わらず全く寝起き感が無い雨城さんの目の前に立つわたしは、髪の毛も寝癖だらけで顔もベタベタ状態で、昨日初対面の男性に見せるような姿をしていなかった。
ただスッキリした目覚めだった為、顔が浮腫んでいなかった事だけが幸いだった。

朝ご飯を食べないと言う雨城さんは、わたしにも朝のカフェラテを淹れてくれ、わたしはブルーベリー入りのヨーグルトまで戴いてしまい、昨日から至れり尽くせりだ。

それから、いつも持ち歩いているバックの中に入っていた化粧ポーチの化粧品でメイクを済ませ、洗濯から乾燥までが完了していた昨日の服に身を包む。

雨城さんは今日もシワの無い綺麗なダークグレーのスーツに袖を通し、いつセットしたのか不思議な程に綺麗にセンターで分けられている黒髪をかき上げながら「それじゃあ、そろそろ行きましょうか。」と言い、雨城さんの車に乗って出社、そして今に至るのだ。

わたしは改めて(こんな凄い会社に、わたしが······?)と不安を感じてきてしまった。

「さぁ、こちらですよ。」

そう言って歩き出す雨城さんに続き、わたしは「はい。」と遅れを取らないようについて行く。
周りを歩く人たちも同じ方向へ向かって歩いていて、この人たち全員が"BLENDA"の社員なのだろうかと、あまりの社員数の多さに圧倒されている自分がいた。

ビルの出入り口は大きなガラスの自動ドアで、中には警備員さんが両側に立ち「おはようございます。」と社員の人たちに挨拶をしている。

わたしも社員の人たちの真似をして挨拶をしながら中へと入って行き、そして雨城さんについて入口の正面にあった受付に立ち寄った。

「おはようございます。」

受付に座る受付嬢二人に挨拶をする雨城さんと、そんな雨城さんに見惚れるように「おはようございます、雨城課長。」と挨拶を返す受付嬢の二人。

(雨城、課長···、そっか。雨城さんは、総務課長って賢司さんが言ってたっけ。)

わたしはそんな事を思い出しながら、雨城さんの後ろで待機していた。

「今日は見学に来ていただいている方が一名いらっしゃってます。入社証を一つお借り出来ますか?」

今日も爽やかで穏やかな雨城さんのイケメンボイスが響く。
その声にウットリするかのように受付嬢の一人が「はい、入社証ですね。どうぞ。」と言い、笑顔で赤いストラップの入社証を雨城さんに差し出していた。
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