余命2ヵ月のわたしを愛した死神
それから雨城さんは、パソコンに向かうある男性の元へと歩み寄って行き、「戸田(とだ)さん、お疲れ様です。」と声を掛けていた。
"戸田さん"と呼ばれる30代後半くらいのその男性は、短髪に色黒の肌で、割とガッチリとした体型に水色のワイシャツとネイビーのジャケットを羽織った強面な表情が印象的な人だった。
雨城さんの呼び掛けに反応した"戸田さん"は、パソコンに向けていたその鋭い眼差しをふとこちらに向け、顔を上げた。
「あぁ、雨城課長。お疲れ様です。」
低く落ち着いた声でそう言った"戸田さん"の首からは『主任 戸田』と書かれた社員証が下がっていた。
「お忙しいところすいませんが、少しお時間宜しいですか?」
雨城さんが"戸田さん"と呼び掛けたその男性の役職は恐らく"主任"で、戸田主任は雨城さんの言葉に表情を変えず「はい、大丈夫ですよ。」と答えていた。
「今後、販促に入社する予定の芽吹さんです。先に戸田さんには、ご紹介しておこうかと思いまして。」
そう言って、雨城さんは戸田主任にわたしを紹介してくれた。
その雨城さんの紹介で戸田主任の視線がわたしに向けられる。
わたしは少し肩に力が入り、姿勢を正すと「芽吹雫です。宜しくお願い致します。」と言って、深く一礼をした。
「あぁ、そうなんですか。新人さん?主任の戸田です。宜しくお願いします。」
そう自己紹介してくれた戸田主任だが、相変わらずあまり表情が無く、わたし自身の印象が良くなかったのかと不安になってしまう。
すると、そんな戸田主任に雨城さんは「戸田さん、顔が恐いですよ。」と言い、笑い掛けていた。
「やだなぁ、雨城課長。それは元々だから、仕方ないじゃないですか。」
そう言って微かに笑った戸田主任を見て、少しだけわたしの緊張が解れる。
どうやら、戸田主任は元々感情があまり表情に出ないタイプの人らしい。
「戸田さん、こう見えても優しい人なので、恐がらなくて大丈夫ですからね。」
わたしに向けてそう言う雨城さんに、「こう見えてって、俺そんなに恐い?」と戸田主任は苦笑いを浮かべて言った。
「戸田さん、あまり表情に出ないから新入社員の人たちは、みんな恐がっちゃいますからね。でも、ただ単にシャイなだけなんですよね?」
そう言って、フォローになっているのかは不明な雨城さんの言葉に戸田主任は「恐がらせないように気を付けます。」と言って、軽く頭を下げていた。
戸田主任に挨拶を済ませたわたしは、雨城さんに連れられ、そのままエレベーターで上の階の6階まで上り、総務課へと向かった。
エレベーターを下りてすぐ目の前に広がっている総務課のオフィスは、販売促進部とはまた違った雰囲気で、少し堅苦しさを感じた。