余命2ヵ月のわたしを愛した死神
雨城さんが総務課のオフィスへ足を進めて行くと、雨城さんに気付いた社員の人たちは「雨城課長、お疲れ様です。」と挨拶をしていた。
その度に「お疲れ様です。」と返す雨城さんの姿を見て、役職が就いても偉そうにせず、一人一人に丁寧に挨拶を返す人もこの世の中には存在するのだという事を、わたしは初めて知った。
「それじゃあ、早速ですが、契約書を書いてしまいましょうか。」
そう言う雨城さんは、わたしを総務課オフィス内にある面談室のような場所に案内してくれた。
そこは、モザイクガラスで囲われた個室で、長いテーブルを複数の椅子が囲んでおり、ホワイトボードやプロジェクターなんかも置いてあった。
(こんなにすんなり、こんな凄い大企業に就職が決まってしまって、大丈夫なのかな······)
あまりのスムーズさに、わたしは少し困惑する。
しかし、わたしに困惑している暇など無い。
わたしは一刻も早く仕事を決めて、新しい家も決めて、雨城さんのご迷惑にならないようにしなければいけないからだ。
その後、わたしは雨城さんに説明して頂いた通りに契約書を書いていき、簡単な会社説明を受け、履歴書は後日用意して、総務課へ持って来る事になった。
社内見学から契約書を書くまでに要した時間は、およそ3時間半。
ランチタイムの時間となった為、わたしは雨城さんと一緒にお昼休憩に出る事にした。
「2階に社員食堂もあるので、気が向いた時にでも利用してみてください。安くて美味しいランチが食べられますよ。休憩時間内であれば、社員食堂でも社外で休憩を取るのも、どちらでも大丈夫なので。」
そう話してくれる雨城さんと共に、わたしは社外へと出ると、空を見上げた。
今日の空はご機嫌斜めの様子で、青空を見せては雲で覆い隠したりと気まぐれだ。
本社ビルの周りは緑に囲まれており、ベンチでお弁当を食べる社員の姿も見受けられる。
(こんな風景、ドラマくらいでしか見た事ないけど、本当にあるんだなぁ。」
そんな事を思いながら、わたしは雨城さんオススメのナポリタンがあると言う、カフェへと向かった。
"BLENDA"本社から徒歩10分先くらいにある、小道を入ったところに隠れ家的な感じでひっそりと営まれていたカフェ"茶葉の森"。
一見、普通の民家のように見えるが、入口横にひっそりと木材の看板に刻まれた"茶葉の森"の文字だけが、そこがカフェである事を示していた。